スランプ気味な恋愛脚本家の恋のお相手は肉体派ヤクザ。ただの取材だったはずなのに深い交流へと発展して…【書評】
公開日:2025/5/22

人の縁とは不思議なものだ。私たちは時に、まったく異なる世界に生きる相手と思いもよらぬ形で出会うことがある。ささいな出来事から始まる縁が人生を大きく動かすこともあるだろう。それは理屈では説明できない、まさに運命のようなものなのかもしれない。
『極道きゅん戀 恋愛ドラマ大好きなヤクザの恋愛事情』(草野來:原作、松下リサ:漫画、炎かりよ:キャラクター原案/KADOKAWA)は、生きる世界が異なるふたりが思いがけず出会い、心を通わせる過程を描いた異色の極道ラブコメディだ。
主人公・小山田ウシオは、かつて一世を風靡した恋愛ドラマ脚本家。しかし、高い評価を受けていたのは昔の話だ。失敗作が続いたことから大手からのオファーはぱったりと途絶え、今や世間的には“オワコン”扱いされる始末。
傷心のウシオのもとに、ある日思わぬチャンスが舞い込む。なんと新作の脚本を依頼されたのだ。ところが、テーマは彼女にとって未知のジャンルである「ヤクザもの」。思い悩むウシオはひょんなことから、ジムでよく顔を合わせる男・鮫肌ユキジが本物のヤクザだと知る。取材を申し出ると、なんと彼はウシオ作品の熱狂的ファンであることが判明して――!?
本作の見どころは、主人公・ウシオの心の動きや彼女を取り巻く世界の変化がきわめて繊細に描き出されている点だ。
現役のヤクザという肩書きを持ちながらもどこか不器用で純粋な男・鮫肌。ウシオにまっすぐな優しさを向ける彼のキャラクター性は、一般的にイメージされる“冷酷で怖いヤクザ像”とはかけ離れている。そんな彼の人間性に触れることで、ウシオもまた脚本家として、そしてひとりの女性として大きく成長していくのだ。
ジムでの偶然の出会いから始まった関係は、やがて取材という名目を超えた深い交流へと発展していく。行き詰まった恋愛ドラマ脚本家と、ハードボイルドな肉体派ヤクザ。本来なら交わるはずのなかったふたりが織りなす恋の行方を、ぜひ見届けてほしい。