泣きやまない赤ちゃんに育児ハックで応戦するも…? 子育てに奮闘する“令和の父”をリアルに描く『理想の父にはなれないけれど』【書評】
公開日:2025/5/23

「父親は外で働き、母親が育児をする」という役割分担が当たり前だったのは、もはや一昔前の話。家族のかたちが多様化する今、父親像も“アップデート”が求められている。
『理想の父にはなれないけれど』(じゃんぽ〜る西/KADOKAWA)は、そんな現代のリアルな子育てを描いたコミックエッセイだ。
著者は、フランス人ジャーナリストの妻・カレンさんと共に、男子ふたりを育てる漫画家・じゃんぽ〜る西さん。父として、ひとりの大人として、理想に振り回されながらも目の前の子どもたちと向き合い続ける日々が綴られている。
昔と今で大きく変わった点のひとつに、「夫婦の在り方」がある。かつては「母親が育児を主に担い、何かあったときに父親に相談する」というスタイルが一般的だった。しかし現在は、夫婦それぞれが役割を持ち、意見を出し合いながら“一緒に育てていく”時代へと変わりつつある。父親も母親も、どちらかが主役ではなく、どちらも“当事者”として子育てに関わることが、ごく自然な流れになっているのだ。
そんな変化を背景に描かれる本作には、父親目線の育児にまつわる失敗や迷い、すれ違いがたくさん登場する。それらをユーモアで包み込みながら、「親だって人間だよな」と脱力させてくれるのが本作の魅力だ。
育児の大変さを誇張するでも、美談にするでもなく、ありのままのドタバタな日々を軽やかに描く。その姿が読み手の心に共感を呼び起こしている。
育児に悩む人、夫婦の在り方を考えたい人。そして、子どもとの関係にちょっと行き詰まりを感じている人にも――。『理想の父にはなれないけれど』は、“父になること”を通して、“人としてどう生きるか”をそっと考えさせてくれる、令和の時代にぴったりの1冊だ。