シンデレラは舞踏会よりポテチがお好き。童話の常識をぶち壊す痛快ギャグ漫画【書評】
公開日:2025/6/7

子どもの頃に読んだ童話。登場するプリンセスや森の中のお菓子の家など、メルヘンな世界観に憧れた時期は、きっと誰にでもあるはずだ。そんな幻想を痛快に裏切ってくるのが『しゃーなしやぞ』(西造/KADOKAWA)。童話をベースにアレンジされた、個性的すぎるキャラクターたちが登場する作品だ。想像を超えるような言動に、笑いがこぼれてしまうだろう。
本作に登場するのは「シンデレラ」や「ヘンゼルとグレーテル」など、5つの有名な童話。しかし、登場するキャラクターたちは原作とはまるで別人。たとえばシンデレラ。原作では清貧ながらも心優しく、意地悪な継母によって舞踏会に行けない不憫な存在として描かれる。だが本作の彼女は、食への執着があまりにも強いキャラクター。ドレスを着ることより、ご飯をたらふく食べたいがために置いて行かれるのだ。舞踏会を諦めた後も、ひとりでポテチパーティーを開いて楽しんでしまう自由さには、脱帽するほかない。
個性豊かなのは脇を固めるキャラクターたちも同様だ。その行動にはどこか現実味があり、読者はつい共感してしまう。シンデレラの王子様は、ひねくれた性格の持ち主。にも拘らず、シンデレラにだけは真っすぐすぎる想いをぶつけるのだ。その不器用さも魅力となっている。魔女も城の命令に忠実な一方で、時間外労働には不満を持つなど、現代の会社員のような一面を見せる。完璧ではない少しずつ歪な性格を持つキャラクターたちに、不思議と親近感を抱いてしまうのだ。
ここまで自由な登場人物がそろいながらも、物語の展開や設定など原作と共通する部分も健在で、キャラクターの奇抜さとのバランスが絶妙だ。“知っているからこそ裏切られる”面白さがクセになる。シンデレラ以外の話も魅力たっぷり。お菓子の家に暮らすコミュ障の魔女や、7匹の子ヤギのもとにベビーシッターとして現れるオオカミなど、強烈なキャラクターばかり。おなじみの物語にまったく新しい角度から切り込んだこの1冊。ぜひ肩の力を抜いて、思いきり楽しんでみてほしい。
文=ネゴト / fumi