身代わりの結婚から始まったのは、不器用で真っ直ぐな愛でした。不遇のヒロインが冷徹公爵に溺愛されるまでの物語【書評】

マンガ

公開日:2025/6/1

 位が高い人間同士の婚姻は、両家の結びつきが重視されることもあるため、当人同士の相性や個人の感情は二の次とされたり、実際に会うまで人となりがわからないこともあるようだ。

心を閉ざした公爵閣下と婚約したはずなのに、なぜか大切にされてしまってます!』(なき:漫画、伊賀栗海:原作/マイクロマガジン社)は、そんな冷めきった婚姻関係のふたりが時間をかけて育む愛情をロマンティックに描いた、至極のラブロマンス・ファンタジーだ。

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 ヒロイン・アリーチェは、マリーノ伯爵家の令嬢でありながら冷遇され、使用人同然に扱われていた不遇の女性。そんな彼女に突如命じられたのは、異母妹の身代わりとして“冷徹公爵”と名高いジョエル・フォンタナのもとへ嫁ぐことだった。

 アリーチェ自身は知らないことであったが、彼女は社交界では「わがままな男好き」と噂されていた。そんな噂を頭から信じ込んでいたジョエルは、アリーチェに対し一貫して冷たい態度を取る。しかし実際のところ、アリーチェは誰よりも働き者で心優しい女性だった。噂とはまるで違う彼女の姿に触れるうち、ジョエルもしだいにその態度を和らげていく。

 本作の見どころは、ヒロイン・アリーチェの内面にあるまっすぐな優しさとひたむきさにある。長年にわたり不当な扱いを受けてきたにもかかわらず、彼女は不遇の人間が無意識に抱きがちな恨みや嫉妬の念や、ひねくれた価値観とはまるで無縁だ。

 周囲を気遣いながら、真心をもって与えられた場所で精一杯尽くそうとするアリーチェの心は、まるで太陽のような温かさに満ちている。そんな彼女に少しずつ惹かれていくジョエルの心の動きも、本作の魅力のひとつ。誤解が解け、心の距離が縮まっていくふたりの愛情の行方をどうか見届けてほしい。

文=ネゴト / 糸野旬

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