現役教師から大反響! 全員ギリギリの教育現場で、毎日必ず定時で帰りパチンコに行く中学教師の姿が伝えるものは?『白兎先生は働かない』【書評】

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PR 公開日:2025/6/1

白兎先生は働かない
白兎先生は働かないしろやぎ秋吾/集英社

 子どもたちの成長を支え、見守る先生。その仕事のやりがいと大切さは言葉では言い表せないほど大きいが、生徒を大切にするという思いだけでは学校は回らない。近年は特に労働環境のことで話題になる教育現場では、実際どんなことが起きているのか。

 本書『白兎先生は働かない』(集英社)は、コミックエッセイ『娘がいじめをしていました』で大きな話題を呼んだ漫画家・しろやぎ秋吾氏が令和の教育現場を描いた作品。SNSを中心に現役教師たちから凄まじい共感を呼んでいるというが、教師ではなくとも、ページをめくれば彼らの苦悩や葛藤は他人事ではいられなくなる。悩みながら生徒と向き合い、家族と向き合うその姿に胸が揺さぶられる。

 本書のタイトルになっている白兎先生は中学校教師。彼女は絶対に定時で帰る。教育現場はブラックな状況なのに、何か特別な事情があるのかと思いきや、その理由は大好きなパチンコに行くため。本作は章ごとに、そんな“パチンカス”の白兎先生にふりまわされる周囲の先生と生徒たちの姿を描き出す。

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 通常業務や部活指導に加えて体育祭の応援演舞の指導もすることになり、毎日、日をまたぐまで働く中堅教師。プールの水を4日間止め忘れて多額の費用を自腹で払うことになった体育教師。生徒たちに慕われながらも何年も採用試験に落ち続ける臨時講師。教員不足に苦しみ他の先生や保護者の顔色ばかりをうかがっている教頭先生。この物語に登場する先生たちは全員限界。理想と現実の狭間でもがきながら毎日を過ごしている。そんな働きすぎの先生ばかりを見ていると、定時後は絶対に働かない白兎先生は間違っていないと思えてくるから不思議だ。白兎先生は大切なものを決して見失わない。思っていることはズバッと言う。その姿に、他の先生は次第に変わり始めていく。

 特に印象的だったのは、土日も部活動に追われる野球部顧問・野久と、彼の妻の姿だ。妻からすれば夫とともに過ごす時間がほとんどなく「部活未亡人」状態。「休みの日に一日中出て手当3千円だよ? 仕事ならちゃんとお金出してよ」「平日(の部活)だって勤務時間外に好きでやってることになってんのよ」「勝手にやりがい感じちゃって楽しくなっちゃってさあ、家族と他所の子どもどっちが大事なんだってのよ」。妻の怒りは止まらず、野久は離婚を切り出されてしまう。彼は悩みながらも、どうにか土日に家族との時間を作ろうとするのだが……。

 生徒にとって学校生活は全て、かけがえのない時間だ。だから先生は息つく暇もなく、毎日遅くまで働くことをつい「当たり前」と思ってしまう。給食を5分でかきこみ、生徒の様子を見ながら提出物をチェックし、部活では普段の授業では見られない生徒たちの顔を見る。授業の準備をし、保護者からの電話対応も行う。先生の仕事に無駄なことなんて何ひとつない。だから自分の時間を大切にするのはこんなにも難しいのだ。

 みんなギリギリで、自分の時間を犠牲にしてでも生徒のことを思う人たちがいなくなってしまう。先生の数は増やせないものなのか。国レベルで何か対策は練れないものか。涙あり、笑いありの本書を読めば、きっとあなたも先生たちを見る目が変わるだろう。現に今もギリギリの毎日を過ごす彼らをどうにかサポートできないものか。そう考えずにはいられない。

文=アサトーミナミ

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