戦うメイド(男)がスパダリすぎる。『そのメイド、危険につき』2巻では、奥様とメイドの関係に変化も【書評】

マンガ

公開日:2025/6/6

そのメイド、危険につき 2巻
そのメイド、危険につき 2巻マコト/白泉社

 祖母の形見の指輪が10億もの価値があると知れ渡ってしまったことで、有象無象からアプローチされるようになってしまったメリッサ・アバネシー。ときには命も狙われるため身辺警護として雇った元軍人・アーサーは非常に有能だが、メイド服を着てメイドの仕事もすることを雇用の条件としていた――そんな少し特徴的なストーリーの『そのメイド、危険につき』(マコト/白泉社)2巻が発売された。

 1巻発売時には、小野大輔氏がアーサーの声を担当したPVも公開され話題となった。戦う執事に続いて戦うメイドも見事に演じており、読んでいても声が脳内再生されるほどのハマリ役で、少し気が早いがアニメでも観たいと思わせられた。

 しとやかで優美なメイドは、荒事とは対極に位置する存在だ。しかしながら、フィクションにおいてはしばしば強いメイドキャラが登場し人気を博している。それは、セーラー服の女子高生が日本刀や銃器を持って戦うのと同様に、本来のイメージとのギャップが生み出す魅力があるからだろう。さらに本作ではメイド服をまとうのが長身で屈強な美青年ということで、ギャップによる妙味もマシマシとなっている。

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 また、歴史的な背景もあってか主人に対して忠実な従者という関係性が日本人には好まれるが、主のために命を賭して戦うメイドという存在はそこにもフィットする。アーサーが素晴らしいのは、かつては軍人として暴力が日常の環境に身を置いていた自分の根底には、野蛮でがさつな性格があることを自認し、だからこそ、優雅で美しいメイドたらんとするその魂のあり方である。度重なる失敗や世間からの否定を越えて、彼を肯定してくれて心から仕えることができる主のメリッサに出逢えたことが尊い。

 一見すると異色な本作だが、少女マンガの要はしっかりと押さえている。2巻では伯爵令嬢のナターシャが登場し、彼女がアーサーに近づくにつれてメリッサはこれまでにない感情に見舞われていく。ライバルが現れることによってヒロインが嫉妬心を呼び起こされ、それとともに自身の強い気持ちに自覚的になる展開は少女マンガの華だ。

 また、1巻から引き続いて2巻でもアーサーの押しの強さにたじろぐメリッサがたっぷりと見られる。スパダリ然としたアーサーは幾度となく涼しい顔で悪びれず迫ってくるが、このメイドは何かと距離が近い。それが良いのだ、至近距離で甘い低音でささやかれたい、という読者の願望を十分に満たしてくれる。さらに2巻では普段のメイド服姿とは異なる格好も幾度か登場し、メリッサの情緒はますますかき乱されていく。

 一方でアーサーも、メリッサの想いに触れていくことで、だんだんと変化の兆しを見せていく。お互いに影響し合って少しずつ変わっていくふたりが、今後どのようになっていくのか。2巻終盤で見せるメリッサのとある行動は必見だ。表面のコミカルさも、その内側に優しく流れる温かい感情も、どちらも魅力的な作品である。

文=兎来栄寿

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