自信を持てない人に必要なものは何か?「かのこ様」シリーズ最新作『恋だの愛だの~君は僕の太陽だ~』完結巻【書評】
公開日:2025/6/5

自信の付け方というのは難しい。『恋だの愛だの~君は僕の太陽だ~』(辻田りり子/白泉社)(以下『君は僕の太陽だ』)を読んでいると、それを痛感する。
『君は僕の太陽だ』は、『笑うかのこ様』『恋だの愛だの』から続く「かのこ様」シリーズの最新作だ。これまでの主人公・苗床かのこ(なえどこ)からバトンタッチし、シリーズの脇役だった山田丈之進(やまだ・じょうのしん)を主人公にしてその後の物語を描いている。
2巻発売時のレビューでも書いたとおり、派手で個性派の級友たちのなかにあって、山田は地味なキャラクターだ。自分自身でも脇役と思っているキャラクター性は共感する人も多いだろう。
『君は僕の太陽だ』では、そんな山田の恋や仕事、人生を描いている。平凡のレールからはずれることを選び、芸人になった山田はトントン拍子に売れっ子になり、2巻ではついに高校時代から憧れていた杜若麗子(かきつばた・れいこ)と付き合うことになる。

あらすじを追っていけば、まさに地味キャラのサクセスストーリーなのだが、面白いのは端から見れば順風満帆としか言えないのに、本人はどこかでずっと自信を持っていないところだ。と言っても、山田はウジウジしているわけでも、単純な天然というわけでもない。むしろ、常に自分を客観視しようとするタイプで、自分に目に見えて華やかな才能やスター性がないことを自覚している。だからこそ、売れて天狗になってもよさそうなところでも、いつでも不安を抱えているし、自分の思う“本物のスター”に対してコンプレックスに近いものを持っている。

そういう山田の自意識はリアルだなと思う。自信を持つためには小さなものでもいいから成功体験を積み重ねることが大事というが、積み重ねた成功を集めてみても、往々にして人は他人のもっと大きな成功と比べてしまう。まして将来なんて不確実なものを考えれば、誰だって不安になる。自信なんてそうそう持てないものだ。
完結となる3巻は、そんな山田を通して不安や自信のなさとの向き合い方を考えさせられる内容でもある。杜若と付き合い始めた山田だが、自信のなさから浮気の不安が頭をよぎったり、相手にふさわしい人間になろうと限界まで無理をして潰れてしまったりした結果、衝動的に別れを切り出してしまう。外から見ている読者にとってはもどかしい展開だが、自分に置き換えれば勝手に不安になって勝手に自滅するなんてバカバカしいことは、よくある。

さて、ふたりの恋の行く末は本編を読んでもらおうと思うが、結果的に山田が自信を持てたかというとそういうわけではない。いつまで経っても思い悩む人生を歩んでいる。だが、山田は勇気を出した。自信がなくて伝えられなかったことや、さらけ出せなかった自分の気持ちを、自信がないままでも言葉にする勇気だ。
筆者を含む山田的な人は、たぶん永遠に絶対的な自信なんて持てない。だけど、前に進むには、自信がないままでもきちんと進もうとする勇気を持つことが必要なのだ。山田の物語は、平凡な私たちにちょっとだけそんな勇気を与えてくれる。
文=小林聖