高橋一生「同じ表現者として、岸辺露伴の自信を見習いたい」『懺悔室』を通じて見えた露伴の新たな一面【『岸辺露伴は動かない 懺悔室』インタビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/6/5

露伴の純粋さと自信は同じ表現者として憧れる

©2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 ©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 呪いに巻き込まれた露伴は、当初、傍観者のように成り行きを見守る。しかし、度重なる幸福が自身のマンガに及ぶと、それまでとは態度を一変させる。怒りの感情をあらわにするのだ。

「露伴の核が見えるシーンだと思いました。すごくはっきりしていて、いいですよね。〈僕は僕の才能だけで漫画を描いている〉と言い切り、そこに幸運や不幸などが入り込むことを絶対に許さない。他人の評価は関係なく、自分が作るマンガに絶対的な自信がある証拠で。同じ表現者として、僕も見習いたいところです」

 露伴の怒りはマンガに対する彼のイノセントな部分からくるものだ。高橋さんは重ねて、「そうした人間の純粋さを、岸辺露伴というキャラクターを通して表現できたことが嬉しかったです」と話す。

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「僕自身の気持ちとも相まって、台詞を言ったあとは非常にスッキリしました(笑)。渡辺一貴監督にも、『この芝居をやれてよかったです』とお伝えしたのを覚えています。そもそも、露伴ってすごく駄々っ子なんです。“自分はこういう人間だから、これ以上は絶対に譲らない”という線引きが出来ている。譲らず、我を通した結果、いつも面倒ごとに巻き込まれるんですけれど(笑)。ドラマの『富豪村』で子どもを相手にマナーについてムキになっているのだって、『ジャンケン小僧』で全力でじゃんけん対決しているのだって、彼の中で絶対的に譲れないものがあるから。こういった、自分というものをしっかり理解しているキャラクターは、演じるたびに楽しみが増えていきます」

 ただ、今回の『懺悔室』はひと味違ったそうだ。

「いつもと同じように駄々をこねてるように見えると思いますが、その駄々が、これまですべてにおいて完璧な人間だと思っていた露伴とは少し異なり、新たな一面をのぞかせていく。これを形にできたことで、彼の人となりが、より立体的になったように思います」

露伴の実写化の楽しさはいかに原作に近づけるか

©2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 ©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 今回の映画で、原作から新たに肉付けされた要素に“マスク”がある。顔を半分隠すヴェネチアンマスクに代表されるように、ヴェネツィアとマスクは切り離せない関係だ。そしてマスク(仮面)といえば、ご存じ、「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズにおいて重要なアイテムでもある。

「これもやはり脚本家の小林靖子さんの筆の妙だと思います。説得力を持って見事に物語の中に融合させている。前作の『ルーヴル』で露伴が自分自身に“ヘブンズ・ドアー”をかけたとき、彼の顔が仮面を着けているようにも見えたんです。今回のマスクには、その流れを汲んでいると思わせるような面白さがあり、その意味でも、つながりが感じられるアイテムとして重要な要素を担っていると思います」

 なお、今月19日にはファンにとって待望のマンガ『岸辺露伴は動かない』の最新巻が発売される。また、マンガやドラマ・映画のみならず、著名作家によるノベライズやアニメ化など、さまざまなメディアミックスを展開している『岸辺露伴』。ここまで多く支持される要因について高橋さんにご意見をうかがったところ、「彼自身が誰にも影響されていないというのが理由として大きいと思います」との答えが返ってきた。

「独自の審美眼、独自の矜持があり、独自の志がある。また、その表出の仕方にも頑固さがあるから、読者は彼の言動にちょっと笑っちゃいながらも、身につまされてしまう。僕も、露伴のようになりたいと憧れるところが多々あります」

 そして、やはり特異なキャラクターであるという魅力も。

「この『岸辺露伴』に限らず、飛呂彦先生は一人のキャラクターを描く際、一つの器に一つの人格を与えれば成立するとは考えていないはずで。きっと、いろんな人格があってこそ人間たらしめていると思って描いている。ステレオタイプなキャラクターではなく、目の前で起きること、遭遇することすべてに対して毎回違う対応をしていても、芯は通っているから、読者は違和感を持たず、納得できてしまえる。そうしたことが『ジョジョ』のシリーズ全編を通して描かれているように思います。また、それは本来、飛呂彦先生の想像力の豊かさと、マンガというフィクションの世界だからこそ成り立っていたものだと思うんです。でも、その完璧なフィクションの世界に対して、どこまで実写で迫っていけるかという挑戦が、僕らがドラマの第1期からやっていることなんです。到達できないとわかっていても、それでも一歩でも近づけるように挑んでいく。そこに僕は毎回楽しさを感じています」

たかはし・いっせい●1980年、東京都生まれ。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。近年の主な出演作に、ドラマ『ブラック・ジャック』、舞台『兎、波を走る』など。主演する連続ドラマW『1972 渚の螢火』(WOWOW)が今秋放送予定。

ヘアメイク=田中真維(MARVEE)、スタイリング=秋山貴紀[A Inc.]、衣装協力=シャツ4万8400円、Tシャツ2万4200円、パンツ5万2800円(全てウィーウィル/ウィーウィルTEL03-6264-4445)、靴5万3900円(フット・ザ・コーチャー/オーセンティック・シュー&コーTEL03-5808-7515)、撮影協力=EASE

高橋さんが表紙で持った本!

『ニコラ・ド・スタールの手紙』
『ニコラ・ド・スタールの手紙』

ロシア出身の画家、ニコラ・ド・スタールが死の直前まで友人や家族、恋人に綴った膨大な数の書簡を収録。

「もともとスタールの画が大好きでしたが、この本を通して、より彼の生き方や考え方、そして画に込めた思いに興味を持つようになりました。ひたすらニースの港を描きながら、自身の画に対する悩みや葛藤を言葉として残している。彼の画を見るときの解像度があがるような感じがして、僕にとって大切な一冊です」(高橋)

原作本!

『岸辺露伴は動かない』
『岸辺露伴は動かない』

『ジョジョの奇妙な冒険』の第4章『ダイヤモンドは砕けない』に登場する人気マンガ家・岸辺露伴にスポットを当てたスピンオフ作品。彼が体験した奇妙な現象を一話完結で描き、映画化された『懺悔室』は1巻第1話に収録。3巻が5月19日に発売予定。

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