大人にも響く、進路に悩む若者たちへのメッセージ。現役美術教師の作者が“今、天才の卵たちに伝えたいこと”を漫画で届ける理由【漫画家インタビュー】

マンガ

公開日:2025/6/7

 最新の書籍や人気の漫画作品の情報を発信する「ダ・ヴィンチWeb」。今SNSを中心に話題を集めているホットな漫画を、作者へのインタビューを交えて紹介する。

 取り上げるのは、現役高校美術教諭が手がけた『今、天才の卵たちに伝えたいこと』。本作の中から、「すごく伸びる人の特徴」をテーマにした3話分を抜粋した投稿が、X(旧Twitter)で話題に。新年度に読みたい話として共感を集め、3万件を超える「いいね」と多くの反響コメントが寄せられている。

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 作者・夏目にーに(@212natsume)さんにインタビューを行い、創作のきっかけやこだわりについて語ってもらった。

「魅力のある絵って、どうやったら描けますか?」
「ぶっちゃけ、私って絵のセンスありますか?」

 高校美術教諭・夏目にーにさんのもとには、生徒たちから絵や進路に関する不安や悩みが日々寄せられている。

 そんな問いに対して、夏目さんは自身の経験と、これまで見てきた生徒たちに共通する傾向を照らし合わせながら、核心を突いた言葉で答えていく。

 本作には、美術を志す人はもちろん、進路に悩む学生や、日々を模索しながら生きるすべての人の背中をそっと押してくれるエピソードが詰まっている。

普遍的なテーマをエンタメに託して描く

ーーこの作品を描こうと思ったきっかけや、その理由を教えてください。

 作品のタイトルを考えるときに、「誰かへの贈り物として渡すとしたら、どんなタイトルがふさわしいか」と想像してみたんです。そうしたら自然と、この「今、天才の卵たちに伝えたいこと」という言葉が浮かびました。

 内容としては、進路に悩む中高生に向けて、そっと背中を押せるような漫画を目指して描いています。とはいえ、大人の読者の方からも「自分にも響いた」といった感想を多くいただいていて、年代を問わず共感していただける内容になったのではないかと思っています。

ーーこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントを教えてください。

 私は「自己啓発のための漫画」を描いているわけではなくて、あくまで“エンタメとして楽しめる中に、普遍的なテーマが隠れている”作品にしたいと考えています。なので、読者の方にはあまり気負わず、通勤中などのちょっとした時間に気軽に読んでもらえたら嬉しいです。

ーー特に気に入っているシーンやセリフを教えてください。

「クリエーターよ立ち上がれ」という話ですね。これはモノづくりをしているすべての人に届けたいと思って描いたエピソードです。

 創作活動をしていると、「どうしてクリエーターの地位ってこんなに低いんだろう?」と感じることがあって……。その思いを、ありのまま漫画にぶつけました。

ーーこれまでにどのように美術と関わってこられたのか、ご経歴など差し支えない範囲で教えていただけますか?

 美大の大学院を卒業してからは、美大予備校で講師をしながら作家活動を続けてきました。地元では毎年個展を開いたり、都内の公募展に出品したりもしています。

 また、地元の公募展では作品審査や会の運営に携わったりと、住んでいる街の美術文化をどう盛り上げていくかを、学校教育と両面から考える仕事もしています。本職は高校の美術教員です。公にはしていませんが、かなり本格的に美術と関わっているかなと思っています。

ーー読者から届いた反響で、特に印象的だった声を教えてください。

 学校関係者の方から「進路通信に使いたい」と言っていただけたことは、とても嬉しかったですね。未来ある子どもたちに、こうして漫画というかたちでメッセージが届いていくことに、とてもやりがいを感じました。「描いてきてよかった」と心から思えた出来事です。

ーー「美術部の話」と思いきや、それだけにとどまらない広がりを感じる作品ですよね。こうした構成や視点の選び方には、どんな思いがあったのでしょうか?

 もともと私の漫画は、ごく私的なエッセイ漫画としてスタートしているんです。なので、まさかここまで広がっていくとは当初は思っていませんでした。

 でも「絵を描くこと」や「教えること」の中には、美術に限らず通じる普遍的なテーマがたくさんあって。そういった部分に共感してもらえたら嬉しいと思いながら、物語の構成を考えています。

ーーご自身にとって「描くこと」はどんな意味を持っていますか?

 小さいころから絵を描いてはいましたが、毎日描かずにはいられない! というタイプではありません。描かない日が続いても、他に楽しいことがあれば大丈夫だと思えるほうです。

「私は本当に絵を描くのが好きなんだろうか?」と考えることもあります。でも、油絵でも漫画でも、何かを描いている日は一日の終わりがすごく心地よくて。そういう感覚が、自分にとってとても大切なんです。

「描くこと」は、生きていくうえで大きな影響を与えてくれたのは間違いありません。ただ、あまり深く考えすぎず、「心地よさを積み重ねていく」という気持ちで、これからも描き続けていきたいと思っています。

ーー今後の展望や目標を教えてください。

 いずれは「夏目にーに」として、絵や漫画の個展を開きたいという夢があります。今は、描きたい漫画や絵画を描いて、それと同時に意欲のある高校生たちに絵を教えている現在の状況にも満足しています。

 ただ、最近は「大きな目標」というものを強く意識することも少なくなってきていて……。このインタビューをきっかけに、あらためて自分の目標について考えてみたいと思いました。

ーー最後に、作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。

 いつも読んでくださって本当にありがとうございます。連載を続けて2年5カ月。新作を描き続けられているのは、読者の皆さんの応援があってこそです。

 ネタが尽きるその日まで、ゆるやかに続けていきたいと思っています。これからもよろしくお願いいたします。

取材・文=ネゴト / Micha

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