『凪のお暇』完結記念!コナリミサトインタビュー “お暇”を経て得たものとは――?
PR 公開日:2025/6/16
これ以外ないと思える最終回になりました
実は、マンガを描くうえで心強い追い風になってくれたのと同時に、競争心を抱く対象となった存在がある。テレビドラマ版『凪のお暇』だ。2019年7月~9月にTBS系で放送された同作は、凪を黒木華、慎二を高橋一生、ゴンを中村倫也が演じ、大河ドラマ『花燃ゆ』などを代表作に持つ大島里美が脚本を手がけた。第7話以降はドラマオリジナルの展開で、最終回はドラマサイドに全てお任せだったという。
「毎回脚本が上がってくるのが楽しみで、“私、こんないいセリフ書いてたんだなぁ”と思ってマンガを確認してみたら、全然書いてない(笑)。ドラマオリジナルのセリフだったことが何度もありました。できあがった映像も素晴らしかったし、放送中は嬉しいばっかりの気持ちだったんですが、放送が終わってからプレッシャーが来ましたね。ドラマの最終回に負けないようにしなきゃ、と」
それくらい、ドラマの最終回はしっくりくるものだったのだ。
「ドラマがなかったら私もあの結末にしただろうな、と思うぐらい綺麗に着地していたんです。いっそ逆張りして、ドラマとは正反対になるような選択を凪にさせようかなと思っていた時期もありました。でも、それは違うなぁと」
ブレイクスルーは、連載を積み重ねていく中で生まれた。凪が北海道の実家に戻り、すったもんだがあった後で、自分の代わりに母親の夕を東京のアパートに送り込む。祖母の世話を一人娘に託し東京生活を満喫し始めた夕は、かつてこの街で出会い、凪を身ごもったことをきっかけに別れた凪の父親・武と再会することを試みる……。ドラマでは描かれなかったストーリーを丁寧に紡いでいくことで、見えてくるものがあったのだ。
「凪を北海道に行かせたのは、とにかく地元で根強い呪いがかかっているから、それを解くためには実家に帰ったほうがいいなと思ったからですね。そうしたら、実家にいるお母さんの闇が深すぎて、この人を何とかしないといけなかったんだ、と凪が気づいたし私自身も気づいたんですよね。“交換留学”でお母さんに東京へ行ってもらうという展開を描いた時に、ここまで描けたなら大丈夫だ、もうドラマには負けないって思った気がします」

これまでの作品は3巻までしか続いたことがなかったが、本作は全12巻。足掛け9年にわたる連載となったが、現実で流れた時間もまた、作品の糧となった。
「長く描いていくうちに、自分も考えることとかが変わってきているんです。例えば、他の誰かになりたいと思ったら人生楽しくない、みたいなことをゴンが後半で気づくんですけど、これは連載を始めた頃の自分はわかっていませんでした。むしろ、他の誰かになりたいと思っていたかもしれない。でも、どうあがいたって自分以外にはなれないんですよ。自分は自分でいるしかないから、健やかに生きていくには、どう自分を飼いならすかが大事。そういう考え方に私自身が変わっていった、そのことが作品に反映されていると思います」
確かに前半は、自分という厄介な存在こそが、自分にとって最強の敵ということが描かれていた。けれど終盤では、自分という厄介な存在を受け止め、そればかりか自分を味方につけるという思考がクローズアップされている。
「何かに挑戦したい時に“できないよ”って一番最初に自分が自分を否定するし、その声が一番自分に近いし大きい。逆に言うと、自分の声を味方につけることができれば、何とかなるんじゃないかと思うんです」
マンガを描くとともに、人生を重ねながら得たさまざまな発見の先に、あの最終回が現れたのだ。
「これ以外ない、と思える最終回になりました。最後は凪だけが選ぶわけではなくて、ゴンと慎二も自分で選ぶんです。それぞれが自分の人生を自分で選ぶ、という姿を描けたことが本当に良かった」
人生、どうやって生きていったらいいのか? その答えはさまざまで、人それぞれに正解があるものなのだろう。ただ、自分は自分の人生を生きるしかない、それを絶望ではなく希望と捉えようということは、読み終えた人の心に必ず刻まれるはずだ。

最後に……気になる次回作は?
「次は、おじさんの話を描こうと思っています。おじさんが主人公のほのぼのとした日常4コマとかどうかなぁと。ただ……どこかのタイミングでやっぱり、キャラクターの目がまっくろになっちゃう気がしているんですよね(笑)」
取材・文=吉田大助
■キャラクター紹介

大島 凪 おおしま・なぎ
28歳、無職。空気を読みすぎる性格の持ち主。職安に通いながら、趣味の節約を満喫する。会社員時代の髪型はストレートだったが、地毛はもじゃもじゃ。

安良城 欣 あらしろ・ごん
凪の引っ越し先のアパートの隣人。来るもの拒まずの抱擁力と優しさで、凪をメロメロに。しかし、凪との深い関係が解消された後で凪を好きになってしまって……。

我聞慎二 がもん・しんじ
凪が働いていた会社の営業部のエースで、元カレ。交際中はモラハラ気味の言動が目立ったが、当時も別れた後も、めちゃくちゃ凪が好き。そのことを言えない。

大島 夕 おおしま・ゆう
凪の母親。北海道の実家で、凪の祖母と暮らしている。娘の人生をコントロールすべく圧をかける。凪の提案を受け、東京のアパートで暮らすことになり……。

市川 円 いちかわ・まどか
大阪から栄転してきた慎二の後輩。あだ名は「空気クラッシャー」。その見た目と言動で、同性からの評判がよくない。自分を受け入れてくれた慎二と付き合い始める。
コナリ・ミサト●2004年、『CUTiE』での連載『ヘチマミルク』でデビュー。20年、『凪のお暇』で第65回小学館漫画賞(少女向け部門)を受賞。その他の作品に『珈琲いかがでしょう』『宅飲み残念乙女ズ』『ひとりで飲めるもん!』などがある。

『凪のお暇』(1~11巻)
秋田書店A.L.C.DX 各748円(税込)
他人に合わせて生きてきた28歳の大島凪は、会社を辞め恋人の慎二とも別れて、郊外のアパートで“お暇”生活をスタートさせた。隣人のゴンのことが気になり始めた頃、元カレの慎二が何故か自分に会いにやってきて……。
©コナリミサト(秋田書店)2017