本格的な“鍛冶の知識”を持った青年が貧しい土地を豊かに変える! チート能力が登場しない異世界古代ファンタジー『青雲を駆ける』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/6/10

青雲を駆ける
青雲を駆ける白田クロノスケ:著、肥前文俊:原作、3:キャラクター原案/イマジカインフォス

 小説投稿サイト「小説家になろう」で話題となった原作をコミカライズした『青雲を駆ける』(白田クロノスケ:著、肥前文俊:原作、3:キャラクター原案/イマジカインフォス)は、未知の世界に迷い込んだ鍛冶師の青年が鍛冶の技術とモノづくりの知識を活かして、技術が未熟で貧しい村を発展させていく異世界ファンタジー作品だ。

 主人公のエイジが記憶を失くして降り立ったのは、いまだに“鉄”ではなく“青銅”が生活の基盤となっている貧しい土地・シエナ村。青銅器が主流で使われている村の中では、鉄器を作るための環境は何一つ整備されていないため、エイジは一から「鍛冶場」を作らなければならなかった。

 しかし、建物を建てるには材料を集める必要があるし、材料を運ぶためには運搬器具を作る必要がある。この世界では無から有を生み出すことができる便利な魔法など存在しない。そのため、村人たちと協力して助け合いながらモノづくりを進めていく過程が、多くのページを割いて描かれているのが印象的だった。木こりのフィリッポや大工のフェルナンドなど、村で生活するさまざまな職業の人々の助けを借りて生きていくエイジの姿は、いわゆる“異世界転生モノ”で見られるチート能力を持つ主人公とは異なっている。

 そして、何といってもこの作品の真髄と言えるのが、主人公が持つ「鍛冶」と「モノづくり」の知識の奥深さだ。ここまで鍛冶場で鉄器を製造する手順を、事細かに説明している漫画はほかに存在しないのではないだろうか。

 鍛冶場の要となる炉を作る段取りや、鉄の塊を熱して形を変える技術など、現実ではなかなか立ち入ることのできない「鍛冶場」の生の知識をていねいに解説してくれている。「水打ち」や「焼入れ」という専門的なワードを含めて、なぜその工程を踏む必要があるのかをきちんと説明してくれているので、読者は理解を深めながら読み進めることができるはずだ。

 ほかにも、古き時代の農耕の様子を細やかに描写しており、その世界を生きる人々のリアルな生活環境を映し出すことで、日常とモノづくりを密接に紐づけることにも成功している。そもそも漫画に登場する鉄器や農耕具も、現代では当たり前のように利用されているモノ。そんな現実の生活を豊かにしている道具の作り方や、それらの道具ができた時代背景を学ぶことができるのも、本作品の魅力だろう。

 そして、見知らぬ土地で出会った未亡人であるタニアと繰り広げられるラブコメ要素もこの漫画の魅力のひとつ。初々しくも仲睦まじいふたりの関係も、物語が進んでいくにつれて徐々に変化していくので、注目してほしい。

 主人公たちの恋愛要素も含んだ異世界ファンタジーとしての世界観を保ちつつも、現代に通ずるモノづくりの知識が詰まった作品になっているので、本格的な「鍛冶の知識」を学びながら物語を読み進めてみてもらいたい。

文=ネゴト / ばやし

あわせて読みたい