容姿も家柄も違うふたりの小学生がそれぞれの夢に向かい中学受験に挑む。その姿がくれるのはコンプレックスだらけの大人に前を向いて歩く勇気【書評】

マンガ

公開日:2025/6/28

 異なる家庭環境で育ち、違う学校に通う子どもたちが、同じ目的のために集う場所、学習塾。『すずめの学校』(今日マチ子/竹書房)は、塾で出会った子どもたちがそれぞれの夢のために中学受験に挑む群像劇だ。

 すずめは、ごく普通の家庭で暮らす小学4年生。優しい小児科の先生に憧れて医師を目指して勉強している。一方、同い年のめだかは私立の小学校に通うお金持ちだが、すずめに「スカートはいらないからあげる」と言ったり、「将来はピーターパンになりたい」と語ったり、天真爛漫でちょっと変わった女の子だ。家庭環境も思い描く夢も、何もかも異なるふたりは、互いに認め合い、励まし合い、日々を駆け抜けていく。

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 また、子ども同士の関わりはその親たちにも影響を及ぼす。すずめとめだかを取り巻く大人たちにも様々な思惑があり、それぞれにコンプレックスがあるのだ。中学受験を軸とした本作は、いわば子どもが大人になる過程で直面する問題や葛藤の縮図。大人にも付いて回る「他人と自分とを比較してしまう癖」や「解消できないコンプレックス」が、非常に生々しく描かれている。

 他人との違いで悩んだことがある人に手に取ってほしい作品。あの家のほうがお金持ち、あの人のほうが綺麗……この世界には他人と自分とを比較する物差しがたくさんある。どれほど羨んでも、誰かのお金や誰かの顔が自分のものになることはなく、それが分かっているからこそさらに羨んでしまうこともあるだろう。そんなとき、すずめとめだかの姿を思い出してほしい。子どもゆえの明るい無邪気さ、時に大人たちの悩みを敏感に察知する繊細さを持つ彼女たちが、手を取り合い、全力で悩み、未来へ駆け抜けていく様子に、きっと元気をもらえるはずだ。

 すずめたちは、私たち大人に教えてくれる。コンプレックスは消えないものかもしれないが、仲間や夢中になれるものと出会うことで手放せるものなのだ、と。

文=ネゴト / 桜小路いをり

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