ゆるいラブコメと思ったら、SF!? 『つよくてニューゲームなラブコメ』は、読者を信頼したからこそ生まれた作品【漫画家インタビュー】
公開日:2025/6/8

最新の書籍や人気の漫画作品の情報を発信する「ダ・ヴィンチWeb」。今SNSを中心に話題を集めているホットな漫画を、作者へのインタビューを交えて紹介する。
取り上げるのは、X(旧Twitter)にて2年半にわたって連載された『つよくてニューゲームなラブコメ』をピックアップ。完結後も作者による再投稿や読者の反応をきっかけにSNS上でたびたび話題となり、現在も注目を集めている。
作者・屋乃啓人 (@chimairasuzuki)さんにインタビューを行い、創作のきっかけやこだわりについて語ってもらった。
スポーツ万能、成績優秀な小学生・小峰くんには、誰にも言えない秘密がある。それは――実は彼、人生をやり直しているのだ。
小学生に囲まれた日常で、勉強も運動もパーフェクト。まさに「強くてニューゲーム」状態。……のはずだったが、前世で想いを寄せていた宮乃さんとの関係だけは、やっぱり一筋縄ではいかない!? スカートめくりや意地悪なんてしないで、まっすぐ「かわいい」と伝えているのに、どうしてそんなに怒られてしまうのか?
キッズたちの恋模様に、読めば思わずニヤニヤしてしまう大人が続出。さらに、少年少女たちの友情物語に、ちょっぴり不思議なSF要素が加わり、次第に深まっていく展開にも目が離せない。
100日チャレンジから生まれた、“やりたい”を詰め込んだわがままラブコメ
ーーこの作品を描こうと思ったきっかけや、その背景にある想いを教えてください。
着手したのは3〜4年前です。当時、Twitter(現X)では「100日チャレンジ」という企画がイラスト界隈で流行していました。100日間、毎日新作のイラストを投稿するというものです。漫画界隈では4ページ漫画が流行していて、Twitterの投稿上限(画像4枚)にちょうどおさまる形式だったため、それを使ってショート漫画を発表しようと考えました。
そこから「100日チャレンジで漫画をやってみよう」という無茶を始め、その中で生まれたのが『つよニュー』です。正直、最初は深い「想い」みたいなものはなく、とにかくネタを考えるのに必死でした。イラストの100日チャレンジも過酷だと思いますが、漫画は話も作る必要があるうえに、複数ページを描く必要があるため、1カ月ほどでギブアップしました。
でも、その過程で『つよニュー』や『スレ違いラブコメ』『藤野谷麻依の不治の病』といった、自分の代名詞になるような作品が生まれたので、やってよかったなと思っています。
ーーこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントを教えてください。
全部です!
読者の方は、たぶん「ゆるくて、ずっと眺めていられる作品」を求めていると思うのですが、自分はそういうのが得意ではなく、伏線を散りばめて回収していくタイプの作風が性に合っているようです。ある意味わがままですが、それをやらせてもらいました。
前半はゆるいラブコメとして楽しんでいただいて、後半は天災に巻き込まれたと思って、SF=「すこしふしぎ」な要素を楽しんでいただけたらと思います。
ーー特に気に入っているシーンやセリフを教えてください。
冒頭で主人公・小峰が「人生をやり直してるのだ……!」と(脳内で)言うシーンですね。あのときの顔が、主人公とは思えないゲス顔で、描いていてとても楽しかったです。
基本的に小峰が暴走しているシーンは、全部楽しく描けました。
ーー2年半にわたる連載の中には、SFやオカルト的な要素も盛り込まれていましたが、こうした展開は当初から構想されていたのでしょうか?
いえ、SF展開は完全に後付けです。当初は「やり直した先が2021年(当時の現代)」なのか、「2021年から90年代後半に戻るのか」すら決めていませんでした。
自分のまじめさとわがままが相まって、「主人公の『やり直し』に整合性を持たせたい」という気持ちが強くなり、気づけばこんな展開に。途中で山本崇一朗先生の『ふだつきのキョーコちゃん』を読んで衝撃を受けました。この作品、主人公の妹がキョンシー(ゾンビ的な存在)であるという秘密を抱えている兄妹のラブコメなんですが、その設定が特に回収されずに終わるんです。「ええ!?」と驚くと同時に、「読者が求めているものってこれか!」と、目から鱗が落ちました。
自分のわがままでしんどい展開に付き合わせてしまった読者の皆さん、本当にすみません!
ーー主人公の2人はもちろん、周囲の生徒たちも一人ひとり個性が際立っていて魅力的です。キャラクター作りで特に意識していることがあれば教えてください。
正直、キャラ立ちにはあまり自信がありません。でも、魅力的に感じていただけているならありがたい限りです。
本作ではキャラクターを描くときに、幼少期の友達を思い出すことが多かったです。誰か一人がモデルというよりは、それぞれのキャラに複数の友達の特徴をミックスしています。主人公の妹だけは、地元の親友の妹をモデルにした気がします。とはいえ、描いていくうちに成長して、今ではすっかり別人になっています。
ーー描き続ける中で、ご自身の中に変化や発見はありましたか? 『つよくてニューゲームなラブコメ』は屋乃先生にとってどんな存在になりましたか?
代名詞的な作品になってくれて、本当に良かったと思っています。正直、自分で読み返しても「何言ってんだこれ」と思うような無茶な展開もありましたが、しっかりついてきてくれる読者がいたことで、「もっと読者を信頼していいんだ」と思えるようになりました。
“連載”というとおこがましいですが、3年近くキャラクターたちとずっと並走してきたわけで、終えるときは学校を卒業するようなさみしさがありました。羽海野チカ先生が『ハチミツとクローバー』の最終10巻のあとがきで語っていた「キャラとのお別れ」ってこういうことなんだな、としみじみ感じました。
ーー商業誌だけでなく、ネットでも発表の場が広がるなかで、屋乃先生ご自身は漫画家に求められることについてどのようにお考えですか?
面白い漫画を描けば、それで十分だと思っています。
ネットでの活動は、たとえば自分のようなハンパ者だったり、雑誌に縛られたくない人だったり、あるいはアダルト系の作品を描く人だったり、そういう人が活用するものであって、マストではありません。
本当はテレビからYouTubeへと移行したように、雑誌から個人発信へと時代が変わると思っていたのですが、どうやらそうはならなそうですね。なので、「ネット活動は広報」「余力があれば遊びでやる」くらいが、健全なバランスなのではないかと思います。
ーー今後の創作活動における展望や、新たに挑戦してみたいことを教えてください。
商業誌で週刊連載をやってみたいです。
ーー最後に、これまで作品を読んでくださった読者の皆さん、そして今後の作品を楽しみにしているファンの方々へメッセージをお願いします。
これまで読んで、自分のわがままに付き合ってくださりありがとうございます。これからもきっと振り回しますので、どうか覚悟してください。もっと大きな舞台で作品を発表できるよう頑張ります。応援、どうぞよろしくお願いします。