「校正・校閲」は人間にしかできない仕事の1つ。言葉のあるところに必ずいる校正者を、同業者が追った対談集【編集者の顔が見てみたい!!】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/6/28

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年6月号からの転載です。

コルク代表・佐渡島庸平が気になる1冊の“裏方”に注目 編集者の顔が見てみたい!!

◎今月の編集者

中央出版 アノニマ・スタジオ 景山卓也さん
かげやま・たくや●教科書系の出版社で9年間勤務後、一般書籍の編集に挑戦したい思いからアノニマ・スタジオに転職。他に手がけた本に『自己否定をやめるための100日間ドリル』『ロゴスと巻貝』など。

いろいろな校正の現場を効果的に伝えるため、さまざまに工夫を

 本書を作るきっかけとなったのは、著者の牟田さんがXで「さまざまな校正の現場にいる方たちに取材をする連載や企画があるといいのに」と発信されていたことでした。かねてより仕事をご一緒したいと思っていましたが連絡先を公表されてなかったので、手順を踏んでアプローチすべきだと考えました。複数のイベントに足を運び、最終的に銀座の森岡書店・森岡督行さんとの対談イベントでようやく名刺交換することができました。これが本書制作の最初の一歩ですね。

 牟田さんを聞き手として様々な校正者に取材をする際、最も重視したのは、各現場の独自性を丁寧に描きだすこと。校正というと文芸書を想像する方も多いと思いますが、この世界はもっと広くて深いことを伝えたい。そこでマンガ、テレビ、辞書など幅広いジャンルを選びました。

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 当初は2色刷りの予定でしたが、取材を重ねるなかで校正・校閲作業の細部を見せるには4色刷りでなければ、と考え直しました。コスト的には勇気が要りましたが正解だったと思います。

 デザインに於いては装丁家の川名潤さんのアイディアで章ごとに写真のレイアウトを変えました。ほぼ必ず入れ込んだのは赤字入りの校正資料と、皆さんが使っている仕事道具。ビジュアル面でも校正という仕事の具体性を見せたかった。

 牟田さんと校正者の方々の対話は、隣で聞いていて大変勉強になりました。牟田さんが、同じ仕事に携わる者だからこそ核心をついた質問をし、それに対する答えから、その方の言葉への向きあい方を導きだしてゆく。特に最終章の中根龍一郎氏への取材は、同じ視点を持つ者同士の「校正論」ともなっており、本書を美しく締めくくっているのではないかと。
売れ行きも好調です。それはひとえに、校正者が校正者に校正について尋ねるというテーマと、聞き手が牟田都子さんであること。この2点に尽きるでしょう。

『校正・校閲11の現場 こんなふうに読んでいる』
『校正・校閲11の現場 こんなふうに読んでいる』(牟田都子/アノニマ・スタジオ、KTC中央出版)2200円(税込)

校正者・牟田都子が、様々な分野で活躍する同業者に取材し、校正という仕事について語りあう。マンガ、レシピ、地図、ウェブ……。言葉のあるところには全て校正があり、書き手と読み手をつなぐ校正者たちの思いがある。

◎佐渡島庸平の気になる!ポイント

AIの時代だからこそ人間にしかできない仕事

 僕は今、AIを大いに活用している。自分の思考をトレースしたAIに試しに文章を書かせてみたら、言葉の選び方やリズムまで僕そっくりで驚愕した。生成AIの進化は目覚ましく、文章の校正はもうAIに任せればいいと思っている人も多いだろう。

 だが、今後ますますAIの時代になってゆくからこそ、言葉を正す仕事は人間にしかできないと思う。AIでは分からないところまで、ひいては書き手自身すら気づいていないところまで深く降りていく言葉のプロフェッショナル、それが校正・校閲者だ。編集者のひとりとして、今この時代にぴったりな良いテーマに感じた。

さどしま・ようへい●1979年生まれ。講談社勤務を経て、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉ら著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。

取材・文=皆川ちか

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