孤独を埋めてくれたのは、配達員の彼だった。満たされない心を抱えた主婦が堕ちた禁断の恋【書評】
公開日:2025/6/16

人は弱っているときほど、他者の善意に強く反応しやすい。閉塞感のある環境に置かれ、孤独や不安を感じやすくなっているときに優しく接してくれる相手の存在は何よりの心の支えとなる。時には絶望の中の唯一の希望のように感じられることさえあるのだ。
『水曜午後2時の恋人 寂しさにつける薬はありますか?』(三松真由美:原作、Hilo:漫画/KADOKAWA)は、暗澹たる気持ちで日々を過ごしていた主人公の揺れ動く心や危うい感情の流れを繊細に描いた作品だ。
主人公・香緒は、夫・剛留と結婚して10年。子どもは自然に授からず諦めたが、夫・剛留とのスキンシップのため、月に一度の夫婦の日を設けていた。しかしそれも、今や短時間で済ませる形式的なものとなり、心はすれ違うばかり。共働きでありながら家事を一切しない夫、何かと香緒に厳しく当たる義姉――香緒の生活は息苦しさに満ちていた。
そんなある日、怪我をした香緒はママ友に薦められて、食材定期便「スマイルエッグ」を利用することに。そこで出会ったのが、配達員の青年・涼弥だった。最初はただのイケメンとしか思わなかった香緒だが、ある出来事をきっかけに、ふたりの距離は急速に近づいていく。
本作の見どころは、満たされない思いを持て余していた主人公が思いがけず差し伸べられた優しさに触れ、しだいに強く惹かれていく過程の切なさ、そして痛ましさだ。
優しさとは本来、人を癒すものであるはずだ。しかし、心が弱っている状態では、それは強い依存心や執着心を生む「毒」にもなり得る。本来の自分では考えられないような行動に出てしまうのも、心のバランスが崩れている証拠だろう。
配達員の青年・涼弥の優しさに強く心惹かれ、「この人だけが自分を分かってくれる」と思い込んでしまった香緒。涼弥の優しさは、彼女にとって本当の意味での救いになるのか、それとも――? 人と人とのつながりの尊さと儚さをあらためて感じさせてくれる作品である。