「空を飛んでみたくない?」ブラック企業勤めの43独身男の夢が叶う!?【漫画家インタビュー】
公開日:2025/7/25

空を見上げて「誰もいない場所に行きたい」とつぶやくのは、孤独な日々に疲れた43歳独身の長島夢彦。そんな彼の前に現れたのは、「空を飛んでみたくない?」と持ちかける謎の男。彼が提案する“飛ぶ力”を得る代償は、長島自身の人生そのもので――。漫画家・勝見ふうたろー氏が描く、ちょっと不思議な短編漫画。
長島夢彦は、多忙と孤独に苛まれ、心が休まることのない毎日を過ごしていた。「誰もいない場所に行きたい」。空を見上げてそうつぶやくと、その願いを叶えるという謎の男が現れる。夢彦は相手にしないが、彼の言動が気になり、とりあえず「体験」をしてみることに。
おじさんを救うマンガを描きたかった(笑)
――本作を生んだきっかけを教えてください
中学か高校の頃だったと思うんですが、パラグライダーに乗ったことがあるんです。それに使う傘のような器具を間近で見て、「こんなに小さなもので体重を支えて安全に降りられるなんて」と驚いたのを覚えています。生身で空の上にいる感覚がすごく衝撃的で面白かったんですよね。その後、何度か飛行機に乗りましたが、機体に包まれているのではなく、体一つで空を飛ぶ体験ってきっと楽しいだろうなと思ったんです。ただの願望なんですけどね。
でも、漫画家として活動していくうちに、その気持ちをふと思い出して、「これを漫画にしたらどうなるんだろう」と興味が湧いて。それが本作の発想のきっかけでした。
――「空を飛ぶ」設定と「43歳独身男」というキャラの組み合わせがとてもユニークで魅力的ですが、先生の年齢や境遇とはずいぶん違いますね?
この作品を描く数か月前くらい、東京を旅行したときに、一般の人も出入りできるオフィスビルに入ってみたんですよ。「中はどうなってるんだろう?」くらいの興味で。すると、中にいたスーツ姿のおじさんたちがみんな疲れ切った表情をしていて。「こんなに憔悴していても人は動けるし、電話で話せるんだな」と驚きました。
それで、「おじさんたちって、こんなに頑張って働いているのに、社会から煙たがられたり、厳しい視線を向けられる存在になっているのは本当にきついな」と感じました。「おじさんたちを救わないといけないんじゃないか」と思ったんです。もちろん、この作品では、救われているのかどうかが微妙なオチになっていますが(笑)。
――確かに、おじさんたちの立場って厳しいですよね。
そうなんですよね。自分もいずれ年を取れば、そういう「疲れたおじさん」になるだろうし。だからこそ、漫画の中でおじさんたちを救う物語を描きたいと思いました。
それと、作画の面でも、くたびれたおじさんって絵としても面白いし、見る人にいろいろな想像をさせるキャラクターだと思ったんです。そんな背景があって、疲れたおじさんを主役にした物語が生まれました。
「体一つで自由に空を飛べたら…」と想像するのは、誰もが一度は思い描く夢だろう。謎の男・不楽井に導かれて、本当に体一つで空を飛んでしまった夢彦。その経験は彼にどんな選択をさせるのか?