人生と引き換えに空飛ぶ力を手に入れた中年男。だんだん自分が無くなっていることに気がつく【漫画家インタビュー】
公開日:2025/7/26

空を見上げて「誰もいない場所に行きたい」とつぶやくのは、孤独な日々に疲れた43歳独身の長島夢彦。そんな彼の前に現れたのは、「空を飛んでみたくない?」と持ちかける謎の男。彼が提案する“飛ぶ力”を得る代償は、長島自身の人生そのもので――。漫画家・勝見ふうたろー氏が描く、ちょっと不思議な短編漫画。
「欲しけりゃ喜んでくれてやる」。自由に空を飛ぶ能力と引き換えに、自分の人生を売り渡した夢彦。家も職も失い、ただその日を暮らしながら空を飛び回る日々。やがて、自分の名前すら曖昧になり始めた夢彦は、ふと立ち止まる。
登場人物たちのモデルは?
――ちなみに、夢彦にモデルはいるのでしょうか?
一応、俳優の嶋田久作さんをモデルにさせていただきました。空を飛ぶ設定なので、太っているおじさんではなく、やせて骨ばった感じの人が合うかなと思ったんです。
――嶋田久作さんですか。確かに少し似ている気がします。
嶋田さんが出演されている作品を拝見して、イメージにぴったりな体つきだなと思って。面長なお顔立ちを漫画的に強調すれば、より「風に吹かれて飛んでいきそうな感じ」を出せると思ったんです。
――説得力ありますね。では、不楽井は何者なのでしょうか? 天使でしょうか?
不楽井は一応、人間っぽい存在なのですが、『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造をイメージして描きました。悩みを抱える人の前に現れ、一見助けてくれるように見せながら、最終的にはその人の人生を良くない方向へ導いてしまう、みたいな。
――なるほど、確かに!
ちなみに、不楽井のルックスや造形はバレリーナをイメージしています。バレエっぽいポーズをとっているシーンも、作中をよく探せば見つかると思います。以前、「バレエは空の上の世界を目指す舞踊だ」という解釈を目にしたことがあって、そのイメージが頭に残っていました。
「体一つで自由に空を飛べたら…」と想像するのは、誰もが一度は思い描く夢だろう。謎の男・不楽井に導かれて、本当に体一つで空を飛んでしまった夢彦。その経験は彼にどんな選択をさせるのか?