水が少し硬くなった世界に順応した人間たち。しかし突然、水がもとの液体に戻ったら?【漫画家インタビュー】

マンガ

公開日:2025/7/29

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 世界中の水が突然硬くなった世界。人々は「濡れない生活」を余儀なくされるが、驚くほど早く順応してしまう。1カ月ほどたち、とうとう喉が渇くという感覚すらも忘れたある日、世界は再び元に戻る。すると……。漫画家・勝見ふうたろー氏が描いた日常SFストーリー。

 少しだけ硬くなった水の世界に、人間の身体も社会もその変化に適応。人々は新しい環境を受け入れ、時にはその状況を楽しむ余裕すら見せるようになった。喉が渇く感覚すら忘れた翌朝、世界の水は突然、元に戻る。

ラストのオチはSNSで大反響!

――インフラが解決して順応する設定が、すごくリアルだと思いました。意外と人間ってこういうことに慣れていくものだなと感じたんですが、こういった描写は意図的なものだったのですか?

そうですね。例えば、ゾンビになるウイルスが流行したとしても、映画では普通にワクチンが作られたりしますよね。それに比べて、この作品の「水が硬くなる」という設定は、深刻な状況ではあるけれど、致命的ではない。水が硬くなっただけであれば、人々はその変化を受け入れて日常生活をアップグレードしていくんじゃないか、という発想で描きました。

――世界が突然変わるという設定は、新型コロナウイルスの影響が作品にも反映されているのでしょうか。

多分影響していると思います。日常が変わり、その変化に慣れていく様子は、ちょうどこの作品を描いていた時期に感じていたことです。その経験が自然と作品に反映された部分もあると思います。

――その危機感すらなくなるというのが、すごくリアリティがありました。そしてラストが少し怖いのですが、これをあえて解説していただくと……。

水の性質が元に戻ったものの、硬い水に適応してしまった人間は元に戻れなかった、ということです。例えば、手のひらには液体の水が残り、下のシーツは体から出た水でびしょびしょに濡れている。そんな変わった世界を甘く見ていた結果、全員が絶滅してしまったと。

――このラストは最初から決めていたんですか?

実は全く決めていなくて。3分の2ぐらいまでネーム描いたときに、「オチをつけなきゃいけない!」と思ってひねり出した結果です。

――確かに、終わらせるのが難しい作品だったかもしれませんが、SNSではものすごい反響でしたね。

Xに投稿したら万単位のリツイートやいいねがついて、想像以上でした。フォロワーさんも大幅に増え、この作品が漫画家として大きな支えになったのは間違いありません。ただ、寄せられた感想やコメントの約8割が「意味がわからない」といった内容でした。

――なるほど……。

特に多かったのはオチについての質問で、「絶望的すぎる」「怖い」「グロい」「こんなオチは嫌だ」という意見や、読者さんなりの解釈が寄せられることもありました。当初は、「申し訳ないことをしたな」「もっと別のオチにすればよかったかな」と感じることもあって。でも最近では、この作品がこれほどまでに注目を集めた理由のひとつは、むしろ「わからない部分」が読者さんの好奇心を刺激したのではないかと思うようになりました。「これ何だろう?」という興味が、多くの人を惹きつけ、結果として作品が広がるきっかけになったのではないかと感じています。

――この反響を受けて、今後の作品に影響はありましたか?

こういった雰囲気の作品を描くのはほぼ初めてで、本当に気まぐれというか、遊び感覚で描いたものでした。なのに、多くの人が楽しんでくれることを知り、自分でも「こういうタイプの作品も描けるんだ」と新たな可能性に気づくきっかけとなりました。

これを機に、まずアイデアや設定を起点にし、そこから展開を広げていくような読み切り作品にも挑戦してみたいと考えています。今回の経験を通して、作家として表現の幅が広がったと感じています。

 変化してしまった水に、人々は戸惑いながらも慣れて順応していく。その姿に、昨日まで当たり前だったことが当たり前ではなくなったら?と、コロナ禍で経験したことを思い浮かべるかもしれない。そして結末まで読んだあなたは、どんな感想を持つだろうか。

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