キーワードは「性愛」!? 同性婚や事実婚、パートナーシップ制度の登場…結婚の在り方が多様化する今こそ知りたい「人が結婚する理由」【書評】

社会

公開日:2025/6/18

人はなぜ結婚するのか-性愛・親子の変遷からパートナーシップまで
人はなぜ結婚するのか-性愛・親子の変遷からパートナーシップまで筒井淳也/中央公論新社

 今、人々の結婚観はさまざま。『人はなぜ結婚するのか-性愛・親子の変遷からパートナーシップまで』(筒井淳也/中央公論新社)は、結婚の在り方が多様化している今だからこそ読みたい「結婚の本質」を深堀りした一冊だ。

 著者は、立命館大学産業社会学部の教授をつとめる筒井淳也氏。本書では、時代を経て変化した「人が結婚する理由」を詳しく解説している。

 結婚はかつて、家族で行う生産・経営活動や権力者による統制など、広い意味での「仕事」であった。生まれた子どもは新たな働き手となるため、夫婦間では性愛より生殖に重きが置かれていたという。

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 結婚制度が設けられた背景には、「子に父を割り当てること」も大きかったようだ。分娩して親子関係が明らかである母子とは異なり、DNA鑑定などない時代では子の父親はわかりにくいケースもある。結婚制度には父子関係を確定し、母子の生活を安定させる意味もあったのだ。

 だが、社会保障が充実してきた現代なら、子を安全に育てられるように制度を設計し、結婚という繋がりがない社会を構想することも可能なように思える。それなのに、なぜ人は結婚やそれに近いパートナー関係で他者と共同生活を送り、繋がりを持つのか。そして、どの国でも結婚制度が設けられているのは、なぜなのか。

 著者は多角的な視点から結婚を掘り下げ、そんな難しい問いへのアンサーを導き出す。独自の観点で解き明かされる「結婚の意義」は読みごたえがあり、読み手は結婚制度の不思議さや意味について深く考えたくもなるはずだ。

 また、著者は同性婚や事実婚などを選ぶ人が現れた経緯も考察。法律婚とは違う「新しい結婚の形」との向き合い方や、今後考えるべき社会的課題も説く。

 著者いわく、現代の結婚を語る上でキーワードとなるのは、「性愛」なのだとか。家族や家の存続が優先されていた時代とは違って、現代の結婚は性愛関係との結びつきが強いという。

 例えば、同性愛はかつても珍しいものではなかったが、生殖に繋がらないことから普通に存在していても、制度としての結婚に結びつかなかったというのだ。

 しかし、人々の間で、結婚は性愛関係にある二者間の持続的な共同関係であるという認識が高まったことや「結婚=出産」という価値観が薄れていったことから、生殖を想定しない性愛関係である同性愛も結婚と結びつくようになったという。

 同性婚に関しては日々、さまざまな議論がなされている。結婚に関する価値観は人によって異なるため、さまざまな意見が飛び交うのはある意味、自然なことなのかもしれない。

 だが、著者によれば、今の日本の「結婚の法」は、ある程度すでに同性婚を迎え入れる準備を済ませているという。なぜなら、結婚の法は年齢制限や、近親者同士は許されない、二者間に限られるなどの規制はある一方、私たちが思っている以上に入り口は開放的で、意外な寛容さがあるからだ。

 例えば、現代の日本における「結婚の法」では日本国憲法の条文にも民法にも、結婚の世界には愛着を伴った性愛関係にある二者しか入れないというような文は書かれていないそう。これは、性愛関係を重視しない者でも結婚制度を利用できることを示唆している。

 だが、そうした柔軟さがある一方で、同性婚を望む人や事実婚を選んだ人など、法律婚ではない当事者はさまざまな場面で不自由さを感じているのも事実だ。

 どういう形で誰と添い遂げるかは、個人の自由。その背景には、複雑な事情があることも少なくない。だからこそ、固定的な枠組みに当てはまる結婚の形を押し付けられたり、法律婚ではないことを理由に、共同生活を営む二者が社会保障などの面で法の枠外にはじかれたりしないような社会をどう築いていくかが今後の課題だ。

 法律婚の穴や代理母ビジネスなど、人が誰かと暮らすことを望んだ時に起こりえる問題も取り上げつつ、結婚という制度を見つめ直した本書。手に取ると、自分が望む形の結婚を「選ぶ重み」も知ることができる。

「選べる」ということは、それぞれの段階で総合的な判断や関係する相手との交渉が必要とされる、ということだ。(p.5)

 結婚の形が多様化し、自分が選んだ方法で愛する人と添い遂げられやすいようになってきたことは喜ばしいが、一方で、選べるからこそ訪れる人生の分岐点もあり、下した決断によってはリスクが生じる可能性もある。そうした覚悟をしながら、自分の生き方を選んでいく強さが、その先の時代を生きる私たちには求められるのかもしれない。

文=古川諭香