気鋭の作家・梨も思わずニヤッとした話題のゲーム『都市伝説解体センター』。ストーリーやグラフィックの魅力を徹底解体!【梨×ハフハフ・おでーん×林真理 インタビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/6/24

©Hakababunko / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES
©Hakababunko / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES

『都市伝説解体センター』を解体せよ!
梨(作家)×ハフハフ・おでーん(集英社ゲームズ シニアプロデューサー)×林真理(墓場文庫 企画・グラフィック・シナリオ)

 わずか4人のクリエイターチーム「墓場文庫」が開発したゲームが、今まさに都市伝説のように広まっている。開発メンバー、販売元である集英社ゲームズのシニアプロデューサー、このゲームにすっかりハマったホラー作家の梨さんが、ゲームの見どころ、そして都市伝説について語る。

梨さん(以下、梨):『都市伝説解体センター』は、発売前からネットで話題になっていましたよね。私も期待していたので、リリース直後に購入しました。その数日後にぶっ続けでプレイして、クリアした興奮のままXで「面白すぎますね」とつぶやいて。私はもともと都市伝説やネットロア(インターネット上で生まれて流布した都市伝説)、民俗学を題材に大学の卒業論文を書いたんですけど(笑)、そんな都市伝説オタクがニヤッとできるポイントが随所に用意されていたのでうれしくなりました。

ハフハフ・おでーんさん(以下、おでーん):ネット怪談やホラーに詳しい梨さんに褒めていただけて、めちゃくちゃ光栄です。

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梨:さらに素晴らしかったのが、幅広い層が楽しめるよう細やかな配慮がされていること。キャラクター造形も現代的でかっこいいし、単にテキストを読むだけでなく、探索して情報を集めて、それらを組み合わせてロジックを作っていくので推理小説や連続ドラマを楽しむような感覚で没入できました。「これは絶対、全人類がプレイすべき」と思っていたら、今まさに全人類がプレイしはじめている(笑)。今は「どこまで売れ続けるんだろう」と見守っています。

林真理さん(以下、林):おかげさまで、リリースから10日間で10万本売れました。今も好調な状況が続いています。

梨:“都市伝説”って、原義は狭いじゃないですか。それをいい意味で拡張していますよね。それこそ「鮫島事件」や「異界駅」のようなネット発の都市伝説もうまく分解・再構成して、ミステリー的なカタルシスに落とし込んでいます。実は、ホラーとミステリーって相性がいいようで実は少しだけ悪いんですよ。ホラーの場合、すべてがつまびらかにされると恐怖が薄れてしまいます。ですが、『都市伝説解体センター』は謎が解体されてもなお怖い。

おでーん:うれしいです!

梨:あえて彩度を抑えた色調も雰囲気づくりに貢献していますよね。色調だけで、もう一発で『都市伝説解体センター』だとわかるじゃないですか。

おでーん:おっしゃるとおり、数あるインディーゲームの中でも目を引くように、パッと見でわかる色調を意識しました。ドット絵の解像度をあえて下げて、色数を絞ることでインパクトを強くして。その分、ディテールを描き込むのは難しいんですが、逆にそのほうがミステリーやホラーとの相性がいいんですよね。最近のモキュメンタリーホラーもそうですが、低解像度だからこそ見えない部分を脳内で補完してもらえますから。

梨:私が巧妙だと思ったのもそこなんです。怖さに関して言えば、4K画質よりもVHSのほうが勝っていますよね。最近はスマホでもテレビと遜色ない画質で撮影できますが、往年の心霊番組の視聴者投稿ホームビデオのような怖さを演出できなくて。その点、このゲームはピクセルアートをうまく生かしてホラーの演出に応用したのが、革新的だなと思いました。

鮮やかなラストに梨さんも思わず拍手!

――『都市伝説解体センター』は全6話で構成され、それぞれ異なる都市伝説を解体していきます。扱う都市伝説はどうやって選定したのでしょうか。

おでーん:海外でも販売したいという意向があり、取り上げる都市伝説のうち、半分くらいは外国の方々にも伝わるものにしました。「ブラッディ・メアリー」や「ドッペルゲンガー」がそうですね。それ以外のものは、「異界駅」や「コトリバコ」のようにできるだけタイムリーなものを入れました。

――梨さんが印象に残っているエピソードは?

梨:おそらくプレイした方全員がそうだと思いますが、最終話ですね。クリアした瞬間、普通に拍手しましたもん。小説を書く側の人間としては、4話の「漏れ広がる邪悪」以降の終盤が面白かったです。ラストに向けてどんどんテンションが上がり、それがプレイヤーの感情の高まりと一致して「どうなるんだろう」と没入感が深まっていく。実に巧みだなと思いましたし、だからこそプレイヤーのクリア率も非常に高いんでしょうね。

林:我々としては、とにかくクリアしていただくことが最優先事項。最後の大オチを知らないまま、途中で離脱されるのは絶対に避けたくて。そのための努力は惜しみませんでした。

おでーん:ですから、何をしてもゲームオーバーにはなりませんし、推理を間違えてもペナルティはありません。誰でも先に進めるよう、丁寧に誘導したつもりです。

梨:ゲーム全体としては、連作短編のようなつくりですよね。全6話でひとつの物語になっていて、各話にも起承転結があるわけじゃないですか。しかも、毎回次のエピソードへの引きを用意しているじゃないですか。1話が終わると思ったら、テーマ曲が流れてシームレスに次のエピソードへ進んでいく。『週刊少年ジャンプ』のマンガのつくりに似ていて、集英社ゲームズさんらしいなと思いました(笑)。

林:各話のラストにクリフハンガー(続きを期待させる場面で終わらせる作劇手法)を置き、すぐに次のエピソードをプレイしてもらう仕掛けは早い段階から決めていましたよね。

おでーん:その場面でメインテーマを流すことも決めていました。僕ら、“「Get Wild」エンディング”をやりたくて。

梨:なるほど!

SNSは怪異が生まれる場所

梨:都市伝説の調査にあたって、主人公のあざみたちはSNSで情報収集しますよね。あのあたりもきっちり作り込んでいて、素晴らしいなと思いました。

おでーん:後から追加した要素ですが、入れてよかったです。現代的になりましたし、ユーザーはゲーム内のSNS投稿を見て自分自身で体験したかのような気持ちになれるので。

林:自分の生活と地続きの話だと感じられるんですよね。

梨:私たちの世代は、民俗学者のおじいちゃんが囲炉裏ばたで語る言葉よりも、SNSのリプライをたどった先にあるクソコメのほうが真に迫ったものに感じられるんですよね。SNSで気になったキーワードから怪異に迫っていくという日常との地続き感は、都市伝説というテーマとも相性がいいと思いました。

おでーん:このゲームを作るにあたり、どこからどこまでを都市伝説に含めるか開発チーム内でずっと話していて。今、僕らにとって一番身近で一番怖いのはSNSじゃないですか。SNSで怪しいものが生まれ、それが人を襲うという図式は何度も見てきましたし、チーム内でも「SNSは怪異が生まれる場所」という共通認識がありました。都市伝説を定義するうえでも、SNSは重要な要素だと思いました。

――このゲームでは広義の都市伝説を扱っていますが、皆さんが考える都市伝説の定義とは?

おでーん:すごく曖昧ですし、曖昧だからいいのかなと思っています。実体がないほうが、怪異らしいですよね。このゲームを遊んだ方の中には「こんなの都市伝説じゃない」と言う人もいれば、「どんぴしゃで都市伝説だった」と言う人もいます。その感想も、都市伝説っぽいなと思います。

梨:堅い話をすると、都市伝説という概念は1960年代に生まれたといわれています。フランスの社会学者エドガール・モランが、試着室から次々と人がいなくなるという「オルレアンの噂」について調査したのが始まりとされていて。そういった真偽のわからない口伝えの噂話が、都市伝説の源流。そう考えると、口承であることも大事だと思いますが、今ではこうした学術的な定義は関係なく、けれん味やアングラ感、怪しさが都市伝説を構成する重要な要素になっていますよね。おでーんさんと同じように、私も定義が曖昧であることが逆説的に都市伝説性を補強しているのだろうなと思います。

林:僕は50代ですが、子どもの頃はゴールデンタイムに都市伝説を扱う番組が放送されていました。ブラウン管テレビに画質の悪い映像が流れ、映っているのかいないのかよくわからないようなものを「こんなものが見つかった!」と煽っていた時代です(笑)。いかにも怪しげですが、エンタメとしての魅力があるんですよね。半分疑いながら、半分信じている。個人的には、そういったものを都市伝説と捉えています。

おでーん:僕は林さんより少し年下ですが、江戸川乱歩や横溝正史、水木しげるの世界観に浸ってこの歳になりました(笑)。僕らの世代にとって、一番有名な都市伝説といえば「ノストラダムスの大予言」でしたよね。信じている人も結構いて、「1999年に死ぬからどうでもいいわ」と思って生活している人も身近にいました。

梨:信じている人がいたんだ!

おでーん:結局何も起きませんでしたが、あの空気を経験したことは僕ら世代の都市伝説に対する考え方に影響を与えているように思います。

梨:2000年生まれの私からすると、90年代サブカル文脈の都市伝説を知っている人がうらやましくて。私が育った時代は、テレビで心霊番組を放送するのなんて年に一度くらい。私より若い世代は、都市伝説への一種の憧れをもって『都市伝説解体センター』をプレイしているのかもしれませんね。

今後増えるのはAIにまつわる都市伝説?

――人はなぜ、都市伝説に惹かれるのでしょうか。皆さんの意見を聞かせていただけますか?

林:「言いたくなる」は、都市伝説のキーワードかもしれないですね。都市伝説って、どれもキャッチー。人に話したくなるし、それを聞いた人も別の人に伝えたくなるから噂が広がり、都市伝説として強度を増していきます。口承の過程で、話を足し引きするのも含めて都市伝説の面白さだと思いますね。

おでーん:僕は、身近かどうかが重要だと思いますね。今の時代に、「口裂け女」のような都市伝説は流行らないじゃないですか。むしろ陰謀論のように身近にありそうな話ほど、リアリティをもって語りやすいのかなと思います。

梨:確かに、落ち武者の霊にまつわる都市伝説、全然聞かなくなりましたね。

林:今は、生活圏内にお墓や神社仏閣が少なくなっていますよね。時代の変化にともない、そういう都市伝説が生まれなくなったのかもしれない。

梨:私はそこそこ田舎の学校に通っていましたが、在学中に校舎が改築されたんです。トイレもきれいになり、自動センサーもついて。その時、思ったんです。「ああ、ここにはトイレの花子さんは出ないな」って(笑)。逆に言うと、今後は新しい都市伝説もどんどん生まれると思うんです。都市伝説や怪談は、よくわからないものに対する不安から生まれますから。『都市伝説解体センター』でも、AIで生成された画像にいつも同じ女性が現れるという都市伝説「Loab」が語られていましたよね。

おでーん:そうですね。AIがらみの都市伝説はこれからたくさん生まれそうです。

――『都市伝説解体センター』続編に期待したいところですね。続編は構想しているのでしょうか。

林:現時点ではまったくの白紙です。ただ、ファンの期待は高いので、ゲーム以外の媒体も含めて何かできたらと思います。今もマンガが連載されていますし、墓場文庫と連携しながら横展開の可能性を探っていきたいです。

――梨さんとコラボするのも楽しそうですね。

梨:もしオファーが来たら、即決しますよ。

おでーん:え、ほんとですか!?

林:この対談をきっかけに、梨さんと墓場文庫のコラボができたら本当に面白そうですね。

取材・文=野本由起

なし●ホラー作家、Webライター。2022年、『かわいそ笑』で書籍デビュー。主な著書に『禍話n』など。マンガ『コワい話は≠くだけで。』原作、展覧会「行方不明展」のプロデュースなど幅広く活躍中。

はふはふ・おでーん●ミステリーを得意とするゲーム開発スタジオ「墓場文庫」所属。企画、グラフィック、シナリオを担当。主な作品に「和階堂真の事件簿」シリーズなど。

はやし・まこと●CG・映像制作会社、ゲーム制作会社を経て、集英社ゲームズの立ち上げに参画。シニアプロデューサーとして『都市伝説解体センター』のほか、『シュレディンガーズ・コール』『キャプテンベルベットメテオ』などを担当。

『都市伝説解体センター』
『都市伝説解体センター』(墓場文庫:開発、集英社ゲームズ:販売)

パッケージ通常版:3740円(税込)
ダウンロード版:1980円(税込)

梨さんの近刊

『ここにひとつの□(はこ)がある』
『ここにひとつの□(はこ)がある』(角川ホラー文庫)770円(税込)

フリマアプリで、「カシル様専用」として箱を出品すると、必ず落札される――。しかし、これにはある決まりが。(「カシル様専用」)新進気鋭のホラー作家が描く、恐怖の連作短編集。

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