利益のための婚約。それなのに心をかき乱されて。本の虫のご令嬢と不器用な王太子が紡ぐじれキュン王宮ラブロマンス『虫かぶり姫』【書評】

マンガ

公開日:2025/6/24

©喜久田ゆい・由唯・椎名咲月/一迅社
©喜久田ゆい・由唯・椎名咲月/一迅社

 立場のある人間同士が婚約する場合、それは社会的な体裁や家同士の都合を優先した結果であることが多い。しかし、形式的な関係の裏で、ひそかに本物の想いが芽生えることもある。想いを押し殺さなければならない立場にあるからこそ、心の動きはいっそう切実で純粋なものになるのだ。

虫かぶり姫』(喜久田ゆい:コミック、由唯:原作、椎名咲月:キャラクター原案/一迅社)は、互いの利益のために形ばかりの婚約を結んだ侯爵令嬢と王太子が織りなす王宮ラブロマンス。2015年から「小説家になろう」にて連載され、Web上で大反響を呼んだ。2022年にアニメ化されると、その人気はさらに上昇。コミカライズ版は最新10巻まで発売中だ。

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 本作のヒロイン・エリアーナは、読書に没頭する静かな時間を何より愛する、ちょっぴり変わり者の侯爵令嬢。周囲からは親しみを込めて「虫かぶり姫」と呼ばれている。そんな彼女が王太子クリストファーの婚約者に選ばれたのは、両者の利害が一致したためだった。

 クリストファーは、宮廷内の派閥争いを避けるための盾としてエリアーナを選んだ。一方のエリアーナは、王太子の婚約者という立場を得ることで、憧れの王宮書庫室への自由な出入りを許されることに。

 読書に没頭できる平穏な日々に満足していたエリアーナだったが、ある日、クリストファーが子爵家の令嬢と親しげに語らう姿を目撃。思いがけない胸の痛みを抱いた彼女は、ようやくクリストファーへの恋心を自覚するのだが――。

 本作の見どころは、初めての恋に戸惑いながらも自分の気持ちと真摯に向き合い、揺れる心を抱えながらも前へ進もうとするヒロイン・エリアーナの気高さにある。もともと本にしか関心がなく、感情を表に出すことの少なかった彼女が、クリストファーへの思慕の念を通じて少しずつ変化し、ひとりの女性として深みと魅力を増していく姿が印象的だ。

 また、そんなエリアーナに対するクリストファーの優しいまなざしや深い想いにも注目したい。静かに、けれどたしかに紡がれていくふたりの想いが胸を打つ、切なくもあたたかいラブストーリーだ。

文=ネゴト / 糸野旬

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