週刊少年サンデー『廻天のアルバス』、第1巻の最後“まさかの展開”にあなたもきっと騙される! 魔王討伐RTAの裏に隠された真実とは【書評】
公開日:2025/6/20

最近の冒険譚は“始まり”の定番を軽々と飛び越えてくる。その代表格として真っ先に思い浮かぶのが、「週刊少年サンデー」で連載中の『葬送のフリーレン』だ。魔王討伐を終えたその後の世界を舞台に、英雄たちの生き様を辿る後日譚ファンタジーとして注目を集めている。そして同じく「週刊少年サンデー」にて、新たな“冒険のかたち”を提示する物語が始まっている。それが『廻天のアルバス』(牧彰久:原作、箭坪幹:作画/小学館)だ。
主人公は、天に選ばれし勇者・アルバス。彼はかつて魔王を討伐し、世界に一度平和をもたらした。だが、物語はそれで終わらない。彼は今もなお、冒険を繰り返し続けているのだ。その理由は、彼に授けられた特別な能力にある。アルバスは「死」をきっかけに、冒険が始まろうとする、旅立ちの直前まで時間を巻き戻す力を持っているのだ。
この力により、彼はこれまでに35回もの冒険を経験している。魔王討伐に成功したのはそのうち11回、そして最短記録は5年3ヶ月と21日……。つまり、彼にとって冒険とは、もはや未知の旅ではなく、どのように進めば最短でクリアできるかの試行錯誤の連続。まるでゲームのように、ルートを緻密に選び抜き、最適解を更新し続ける日々なのだ。


勇者パーティーの人選から進行ルート、さらには冒険に欠かせない村人Aとの些細な交流に至るまで、アルバスはすべての“正解”を把握している。そんな彼が歩む冒険は、一見すると予定調和の塊のようで、どこか退屈な旅にも思えるかもしれない。だが実際には、驚くほどテンポがよく、無駄のない展開が心地よい爽快感を生み出している。そこにこそ、本作の不思議な魅力がある。
遠回りこそが冒険の醍醐味という通説を軽やかに乗り越え、“最短ルートの美学”で読者の予想を鮮やかにかわしてみせるアルバスの旅。さらに、作画を手がける箭坪幹先生の緻密な筆致が、この加速感に拍車をかけている。風を切るようなスピード感、緊張と弛緩のリズム。まるで高速道路を爆走しているかのような迫力が、物語にさらなる推進力を与えている。

だが、物語を読み進めるうちに、次第に浮かび上がってくるのは一つの切実な問いだ。なぜアルバスは、そこまでして冒険を急ぐのか。なぜ最短距離での魔王討伐にこだわり続けるのか……。その異常なまでの執着の裏には、彼自身も抗えない焦燥が静かに横たわっている。最適化された冒険の裏にあるのは、ただの快楽や勝利ではない。何度命を落としても繰り返す彼の旅は、実は彼が心から望むたった一つの未来を手繰り寄せるための、祈りにも似た軌跡なのだ。

実は、第1巻はすべてがプロローグに過ぎない。本当の物語、いや“廻天”という名の通り、世界と時間が本格的に回りはじめるのは第2巻からだ。ここから先は、すでに冒険を繰り返してきた者、つまり過去を知る者だけがたどり着ける領域だ。幾度もの死と選択の果てに、彼が願う「ただ一つの正解」はどこにあるのか。
『廻天のアルバス』とは、英雄としてではなく、一人の人間として未来を選び取るための旅なのかもしれない……。繰り返される冒険の果てに、彼がたどり着く未来とは何か、その答えはページの先にある。なお、コミックス最新第5巻が発売中。この機会に、まだ見ぬ“最適解”を一緒に追いかけてみてはどうだろうか。
文=ちゃんめい