甘いが重い…ウザ可愛い先輩女性とドライな後輩男性の微妙な関係を描いたオフィス友達コメディ、ふたりのこれからはどうなる?『のあ先輩はともだち。』【書評】
PR 公開日:2025/7/17

年を取れば取るほど友達を作ることが難しくなる気がする。子どもの頃のように、なんとなく友達になったという場面はそうそうないし、面と向かって「友達になろう」と伝えるのもどこか気恥ずかしさが出てきてしまう。そして立場の上下もある職場内ではなおさらだ。
仕事ができる女性と、周りとはあまり深い関係を持たない主義の後輩男性との、恋愛とは異なる微妙な関係を描いた『のあ先輩はともだち。』(あきやまえんま/集英社)は、2025年4月時点で累計80万部突破(電子版含む)の話題作。とあるゲーム制作会社を舞台にした「オフィス“ともだち”コメディ」だ。
ある出来事をきっかけに、バリキャリだが、親しくなると若干重めの女性から「友達にならない?」と迫られ、友達となるふたり。絵柄が可愛らしく読み心地は軽いが、そのバリキャリ女性の性格が少し甘くて若干重めという、他にはなかなかない設定の作品である。
バリキャリ先輩の闇深い本性を知って友達に
早乙女望愛(さおとめのあ)は、27歳のゲームデザイナー。望愛は、常にクオリティの高い制作物を出力し、事務作業もそつがなく、コミュニケーション能力にも秀でていた。ディレクターとして周囲からの信頼も厚い彼女を、後輩の23歳男性・大塚理人(おおつかりひと)もまた密かに尊敬していた。ただ、彼は彼女に敬意はあるものの、基本的にどんなことに対しても「ほどほど」を身上としているため、やる気満々の望愛とは積極的に交わることはなかった。
だが、理人はひょんなことから望愛の本当の顔を知ってしまう。
クールな仕事人間に見えていた望愛が、彼氏と別れたために泣きながらオフィスで酒を飲んで深夜残業していた。日中とは全く異なる姿を図らずも見てしまった理人は彼女とふたりで飲みに行くことになる。そこでいきなり、彼女のクレジットカードを使い込むような男に尽くしていた自分のダメさを語って望愛は泣き騒ぐ。
人によってはここでドン引きだろう。しかし理人は「恋愛も仕事も本気でやっているのはすごい、かっこいい」と言う。何事も「ほどほど」の彼からすると本心からの言葉だ。それを聞いた望愛はコロッと元気になり「友達になってほしい!」とさらに距離を詰め、「大塚君は男!!って感じがしない、ニュートラルだから友達になれそう」と続ける。理人はこのグイグイぶりに閉口しつつも、彼女に敬意があったことと「(少しヤバそうだけど)いい人」という判断から提案を受け入れ、「のあ先輩」「理人くん」と呼び合う友達関係が始まった。
さて、のあ先輩はいい人だし面白い。しかし現実にいたら友達になりたいだろうか……と、とりあえずここまで読んで悩んでしまった。
ヤバい女性とドライな男性の友達関係に進展が?
さらに読み進めても、のあ先輩はヤバかった。友達になった日から理人のメッセージアプリの通知が鳴りやまなくなる。彼女は「かまってほしい」「さみしい」が過ぎるのだ。一晩で未読が100件近くにも。ただ理人は、のあ先輩のお誘いのおかげで恋愛映画を観に行ったり、好きな漫画やドラマの感想を語り合ったりするようになる。ドライでマイペースな理人が少しずつ変わっていって……と考えると、のあ先輩はヤバいだけではなく、人の心を動かす力があるのだろうか?
「友達になった理人と一緒にいることが楽しい」と無邪気にはしゃぐのあ先輩は「恋人は別れることがあるが友情は続く」と言い「絶対絶交しない」と指切りを迫る。友達にしては重すぎる気がするので、やっぱりヤバい人かもしれない。難しい。
理人が照れまくってしまうラッキースケベや、意図のない言葉で勝手にのあ先輩が男女を意識するといったドキドキ展開はある。だが本作はあくまでも友達コメディ。ラブコメであればお互い意識して盛り上がる流れになる場面でもそうはならない。特に理人の「めんどうだけど、放っとけない」という保護者的な感覚が恋愛関係に進展させないのだ。
そんななか、最新7巻では動きが見える。とある出来事から、どちらかがどちらかを強く意識するようになるが、この関係がどうなっていくのか気になって仕方がない。
さて、可愛いがヤバいのあ先輩と、自分だったら友達になれるかどうかは、現時点の最新話まで読んでもわからなかった。だが彼女から目が離せないのは確かである。あなたののあ先輩への評価はいかがだろうか? ぜひ読んで判断していただきたい。
文=古林恭
