絶望ばくち地獄/絶望ライン工 独身獄中記㊼
公開日:2025/6/25

血が沸き立つ鉄火場の空気。負けが込む程アツくなる、心がヒリつくあの感じ。
俺ァ根っからのばくち打ちさ。
表通りのパチンコ、スロット、競馬にボート。
お上に隠れてサイコロ賭博、麻雀ポーカー裏カジノ。
おおよそギャンブルと名のつくものなら何でもやった。
派手にアソんで華麗に負ける、タガマのゼツとは俺のことさ──
上記はもちろん恰好よく脚色した嘘っぱちであり、実際の自分からはかなり遠い。
モデルとなっているのは阿佐田哲也先生による傑作ピカレスク小説「ドサ健ばくち地獄」より主人公上野(ノガミ)のドサ健である。
彼はタバコを吸い酒を飲み、ばくちを打っては暴力を振るい女を泣かす。
私が理想とする豪快なモテ男性像そのものである。
やっぱり男はこうでなくちゃあダメだ、優しいだけの男はモテない。
いつの世もワルい男が人気である。
マッチングアプリの「人気会員を参考にする」をタップすると出てくる先の尖った靴を履いた野郎共。
お年寄りを騙して不動産を買わせ、わナンバーのBMWの前で誇らしげにツー・ブロックを披露する彼らは現代のドサ健だ。
もてはやされるワルい男は詐欺師稼業にとどまらず、
例えば近年台頭する “ならず者暴力オーディションチャンネル” で人気の出演者は皆窃盗や恐喝、暴行の前科者である。
全身入れ墨だらけのアウトロウが女性たちにモテモテなのを見て大変に羨ましく思う次第であるが、これが世の常と受け入れなければなるまい。
私の人生の目標は配偶者を見つけてこの悪夢のような連載を終わらせることであるから、それには出会いの母数を増やす必要がある。
つまりモテるための努力です。
ならず者オーディションチャンネル出演者のように犯罪行為に手を染めるのは無理であるから(この期に及んでまだ良心が残っているやうだ)、ドサ健に倣いばくち打ちになるのがよろしい。
自身の投稿動画にてパチンコやスロットに勤しむ姿がたまに映るが、常習的に打っているわけではなくモテ男性を表現する演出の意味合いが強い。
ただ競馬や競艇は楽しい。酒を飲みながら小さく張るのが好きであるから、外してもヤケドせず微負けで済むってわけ。
そういえば動画を撮りながら馬券を買うと勝つ、という謎のゲン担ぎがあるから競馬場ではキャメラを回す、これまで負けたことは今の一度もない。
一方ボートの方はてんでダメで、撮ろうが撮るまいが結局負ける。
(競艇場は場内撮影厳禁であるから別途許諾が必要である)
最近競輪も始めたがこちらも当たらぬ。平塚までの交通費を返してくれ。
競馬は農林水産省、競艇・競輪は経済産業省が元締めとなる公営賭博であるから、お上のお膝元でアソぶ安全なギャンブルである。
そうなると民間の危険なばくちが実に恋しい。
令和の花札、大人の絵合わせマッチングアプリも射幸性という意味では最高にヒリヒリするが、私が最近ドハマりしている危ない民営ギャンブルを特別にお教えします。
その名も動画投稿サイトプレビュー画像賭博、通称「サムネばくち」である。
動画投稿用にサムネイルを複数作り、その中から1つだけ選んでベットする。
当たりとハズれで払い戻しが10倍変わる、地獄のようなゲームは一度やったらやめられねえ。
このサムネばくちは毎週月曜に賭博場開帳となるが、金曜夜に配当率の指標として「サムネアンケ」が稀に開催される。
この結果を元にオッズが決まり、勝負サムネに全ツッパするタガマのゼツってえのがこの俺さ。
42歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。