「どうしても産みたい」16歳の娘が妊娠。しかも相手は彼氏ではなく…。娘の母の視点から綴られる衝撃作『娘を妊娠させたのは誰ですか?』【書評】
公開日:2025/6/25

『娘を妊娠させたのは誰ですか?』(たけみゆき/KADOKAWA)は、16歳の娘から妊娠を告げられた母・さなえの視点を通して、“子どもの妊娠”という突発的な出来事に直面した家族の葛藤を描いた衝撃作である。
夫と娘との3人で穏やかに暮らしていたさなえ。だがある日、娘の春菜から「妊娠した」と告白され、その日常は一変する。
彼氏の航太郎を交えた家族間の話し合いも思うようには進まず、やがて春菜と航太郎は家を飛び出してしまう。さらに追い打ちをかけるように、「お腹の子の父親は、彼氏の航太郎ではない」という衝撃の事実が明かされる。
若さゆえの無知や衝動での性行為。そのツケを大きく背負わされるのは、女性ではないだろうか。妊娠を知った瞬間、たとえ理性では「無理だ」と理解していても、「産みたい」と思ってしまうのが母となる者の本能なのかもしれない。相手となった男性も「産ませてあげたい」と感じることはあるだろう。だが、“気持ち”だけでは命を育てていくことはできない。
とりわけ印象的なのが、妊娠した春菜と彼氏の航太郎の“無力さ”である。ふたりは「一緒に頑張って育てよう」と覚悟を決めるものの、未成年である以上、働ける場所も限られ、泊まる場所すら見つけられない。やがて金銭的にも限界がきて、実家に戻ることになる。親の支援もないままに生活していくには、あまりにも厳しい現実が待ち受けている。
本作は「10代で妊娠することのリスク」を、説教くさくなることなく落ち着いたトーンで粛々と伝える。性について深く語ることは、家庭でも学校でもタブー視されがちだ。だからこそ真剣に向き合い、語り合う機会の必要性を痛感させられる。
恋愛や性行為の先にある「命」と向き合う覚悟が、自分自身にあるのか。本作はそんな問いを我々に突きつけている。