不遇令嬢と“魂喰らい”の魔法使い。孤独なふたりが出会い、恋に落ちる。ピュアでまっすぐなシンデレラファンタジー【書評】
公開日:2025/6/28

『不遇令嬢とひきこもり魔法使い ふたりでスローライフを目指します』(深田華央:漫画、丹羽夏子:原作、ボダックス:キャラクター原案/KADOKAWA)は、孤独なふたりが少しずつ心を通わせ、穏やかな幸せを育んでいく姿を描いたシンデレラファンタジーだ。
物語の主人公・ネヴィレッタは、火属性魔法の名門侯爵家に生まれながら魔力を持たず、“落ちこぼれ”として長年冷遇されてきた不遇の令嬢。ある日、王都への帰還を命じられた最強の魔法使い・エルドを迎えに行くという厄介な任務を押し付けられてしまう。
“魂喰らい”と恐れられるエルドの噂に怯えながらも、覚悟を決めて彼の元を訪れたネヴィレッタ。そこで出会ったのは、孤独の中で静かに生きる、誠実で優しい青年だった。
エルドとともに過ごすうちに、ネヴィレッタは「自分には何の価値もない」という思い込みから少しずつ解放されていく。兄のマルスに対し、「家には帰らない」とはっきり自分の意思を伝える場面には、彼女の内面の変化が力強く表れており、思わず心を打たれる。
魔法が使えなくても人の役に立ちたいと願い、目の前の問題に真摯に向き合うネヴィレッタの姿には、自然と心が惹きつけられる。ゆっくりと距離を縮めていくピュアなふたりの関係にも、胸がときめく。
一方のエルドもまた、過去の罪や人間不信から心を閉ざしていたが、ネヴィレッタのまっすぐな優しさに触れるうち、少しずつ心を開いていく。
人並みの幸せなんて、自分にはきっと縁がない。どこか諦めるように生きてきた者同士が出会い、支え合いながら、“ふたりで幸せになる”未来を選んでいく。その姿に、きっと心があたたまるはずだ。
恋愛ファンタジーとしての胸がときめく展開も、心に寄り添うヒーリングストーリーとしての魅力も詰まった本作。ぜひ楽しんでいただきたい。