クラスの完璧女子の信じられない姿を目撃…! ネタが“笑えない”お笑い志望女子と冴えない相方男子の“ウケる”未来探しはどうなる?【書評】

マンガ

公開日:2025/7/18

スベる天使
スベる天使桜箱/白泉社

 人前で何かを表現するのも、誰かを本気で信じるのも簡単じゃない。『スベる天使』(桜箱/白泉社)は、そんな感情に正面から向き合った青春ストーリーだ。冴えない男子高校生と、お笑い芸人を目指す“ネタ以外は”完璧な女子。笑いを通じて心を交わしながら、ふたりは少しずつ変わっていく。

スベる天使

 主人公の城間は、夢も目標もない平凡な高校2年生。ある日、ひょんなことからクラスの優等生・天羽舞の意外な姿を見てしまう。舞は芸人を目指していて、山の中で一人こっそりとネタの練習をしていたのだ。その場の勢いで、「自分も芸人を目指そうとしたことがある」と口にしてしまった城間は、舞にネタ帳を見せることになる。

スベる天使
スベる天使

 お笑いをテーマにした青春モノである本作。城間は嘘をついた辻褄を合わせるため、元芸人だった兄のネタ帳を舞に見せる。ネタを見て笑う舞の笑顔に、「俺だって!」と自分でもネタを作ってみるが、ことごとく惨敗。今までやりたいことが何もなかった彼が、「笑ってくれたらいいな」と純粋な思いからネタ作りに励む姿に、つい微笑ましくなってしまった。

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 コンビを組み、文化祭でお笑いを披露することになったふたり。舞がお笑いを好きな理由は、「楽しいことが好きだから」と、とてもシンプル。その無邪気な思いに触れるうちに、城間にも少しずつ変化が生まれていく。「天羽さんが笑うところをずっと見ていたい」そんな思いから、彼は本気で一緒にお笑いをやることを選ぶ。

 だが、致命的な問題があった。舞が考えてくるネタや演技が、おもしろくないのだ。ただ、それを指摘しようものなら、彼女はショックで落ち込んでしまう。そんな姿を見るのはつらい……と悩む城間。しかし舞台に立つのなら、ダメ出しをしなければならない。悩み葛藤する城間だが、真摯に努力する舞の姿を見て、ついに本音で話すことを決心する。しかしそのことが、ふたりの間に亀裂を生んでしまい……。

スベる天使

 1巻では、お笑いを通じて「信頼関係とは何か」がメッセージとして盛り込まれている。これを言ったら相手が傷ついてしまうかもしれない。傷つけたくない。そんな思いから、言わなきゃいけないことを言えないという経験は、生きていれば誰しも一度はするはずだ。そんなとき私たちが考えるのは、“受け入れてくれると相手を信じる”ことだろう。しかし本作は、「信じることも大事だけど、信頼されるには怖いことを承知で相手に飛び込まなきゃいけない」と、生きていて見落としがちなことを教えてくれる。

 お笑いに限らず、“舞台に立って何かを表現する”という行為は、それに挑戦した人にしか味わえないものがある。緊張や怖さ、やりきったあとの妙な清々しさ。『スベる天使』は、その一つひとつを丁寧にリアルに描いている。

 お笑いと青春。本作はジャンルだけを並べると王道だが、描かれているのはとても青くまっすぐな感情だ。壁にぶつかりながらも、誰かと何かを一緒にやってみようとするふたりの姿が、じんわりと胸に残る。

『スベる天使』待望の第一巻は、7月18日(金)発売。果たして、文化祭の舞台で彼らが見る景色とは――。ふたりの青春とともに、この夏を過ごしてみてはどうだろうか。

文=倉本菜生

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