彼は今日も寝癖でバゲット丸かじり。コンプレックスだらけの女子が、マイペースすぎる彼に出会ったら【書評】

マンガ

公開日:2025/7/26

 思春期の繊細な心の揺れを、丁寧に描いた作品『マイペースと歩く』(三本阪奈/新潮社)。中学生のリアルな葛藤と、少しずつ築かれていく人間関係が描かれており、読む人の心に優しく染み込んでくる一作だ。淡くてまっすぐな二人の距離感に、胸がキュッと締め付けられるようなときめきを感じる。

 主人公の近藤は、眉毛がコンプレックスでつい前髪を直してしまう癖がある。彼女が気にしているのは見た目だけでなく、周囲の視線や発言だ。目立たずに周りと溶け込みたい。そんな思いから、自分の気持ちを上手く伝えられなかったり、何気ない一言をいつまでも引きずってしまったり。なんだか息苦しい毎日を送る姿に、自分の学生時代を重ねてしまう読者も多いだろう。

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 そんな彼女の前に現れるのが、寝癖をつけたまま、大きなバゲットを頬張るマイペースな高橋だ。人目を気にせず、自分のペースで行動する高橋と一緒にいる時間は、普段と違って自然と肩の力が抜けていく。そんな居心地の良い時間を通して、近藤自身の在り方や他の人との関わり方も変わっていく。

 自由奔放に見える高橋だが、近藤の心の機微や周りの状況をしっかり感じ取って、さりげなく手を差し伸べてくれる場面もあり、なんともカッコいい。そんな高橋に素直に「ありがとう」と伝えられる近藤も、また魅力的だ。どちらも少し不器用だけれど、相手を思いやる気持ちがきちんと伝わってくる。2人の関係は、急速に縮まるわけではない。でも、だからこそ丁寧に描かれた一つひとつのやりとりがリアルだし、じんわりと心を温めてくれるのだ。高橋がなぜ近藤に関心を持ったのか、その理由が描かれるエピソードもあるので、ぜひ読んでほしい。

 2人をはじめとした登場人物たちは、進路や親との関係など、様々な現実と向き合っていく。彼らが少しずつ成長する姿は、思春期だけではない人間関係の痛みや悩みに、そっと優しい光を差し込んでくれるだろう。高橋のような存在に出会えたら、そして高橋のようにマイペースに優しくなれたら、人生はきっともっと軽やかになる。

文=ネゴト / fumi

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