半人前の死神「ちにかみ」は命を奪わない。だがそれでいい、そこがいい! 『ちにかみ 死が怖い小さな死神』【書評】

マンガ

公開日:2025/7/1

ちにかみ 死が怖い小さな死神』(しろやぎ秋吾/KADOKAWA)は半人前の健気な死神が、人間と関わって成長していく様子を描いた物語。可愛すぎるキャラクターと、愛情に溢れた世界観に心があたたまる。

 
 ちにかみは死神の子どもなのに、心が優しく恥ずかしがり屋で死が怖い。えんま様に背中を押され、まずは1キルを目指すことに。ターゲットに選んだのは、人間のおばあちゃん。だがおばあちゃんは、ちにかみを快く迎え入れ、一緒に暮らすことになってしまう。

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 おばあちゃんとちにかみとの相性は抜群。少し気弱なちにかみとは対照的に「全く死ぬ気がせんのよ」と語り、大胆で朗らか。相手が死神でも動物でも、気に留めずに自然と心を通わせられる。

 季節のイベントを楽しんだり、大好きなご飯を満喫したり、近所の人と笑い合ったり、今を楽しみながら暮らしているおばあちゃん。分け隔てなく快活なおばあちゃんを見ていると、行き先のないちにかみを受け入れたことにも納得がいくだろう。ふたりのやりとりはまるで親子。見ていると心がほんのりあたたかくなる。
 
 作中でちにかみが言葉を発することはない。だがコロコロ変わる表情から、喜怒哀楽は手に取るように伝わってくる。うるうる、キラキラ、プンプン、冷や汗タラリ。感情ダダ漏れで、思わず吹き出しそうになることも。自分の気持ちに素直なちにかみはとても愛らしく、その成長を見守ってしまう。そんなちにかみもさまざまな人間や死神仲間と関わり、経験を重ねていく。

 本作には、まるでペットや小さな子を見守るような気持ちで、読者を一喜一憂させる魅力がある。

 ちにかみは、誰かの命を奪うのではなく、寄り添い、癒やす。その姿は死神失格かもしれない。でも、それでいいし、それが素敵だ。そんなあたたかな気持ちにさせてくれる作品である。

文=ネゴト / fumi

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