耳かき専門店を訪れた電車の運転士が語る人身事故の衝撃とそのトラウマ。そして考える、生きるということ【漫画家インタビュー】
公開日:2025/7/5

耳かき専門店での勤務経験をオリジナル漫画にしてSNSで発信する森民つかさ(@uouououoza1)さん。自己否定という“沼”にハマってしまっている漫画家志望の主人公が耳かき専門店で働き始め、さまざまな境遇の客たちとの交流を通じて自己否定と向き合う姿と、知られざる耳かき専門店の知られざる裏側を描いた『耳かき専門店で働いて自己否定“沼”から抜け出す話』。著者である森民さんにお話をうかがった。
漫画家を志望するもうまくいかず、自己否定の“沼”に浸かりきってしまった主人公は「耳かき専門店」で働く日々。ある日、担当した客は座ったまま寝ている電車の運転士の男性だった。彼はおもむろに人身事故の体験談を語り始める。
訪れる客はそれぞれに何かを抱えている
――電車の運転士さんの働き方を描いたエピソードには驚かされました。ほかにもお客さんの職業体験談で興味深いと感じたものはありますか?
葬儀場や火葬場で働いているお客さんの肩と首が石みたいにカッチカチで、「葬儀場、火葬場は厳かな場所だから、同僚と雑談したりにこやかにコミュニケーションをとるだけでお客さんからクレームが来たりするんですよ。常に悲しみに浸るお客さんに気を使いながら、目線を意識しなきゃいけないから、仕事中ずっと肩に力が入って凝りやすいんですよね」というお話を聞いたときは驚きました。世の中には働いてみないと分からない苦労がたくさんあるんだなぁ、と。
――運転士が人身事故に直面した体験など、重い話をしてくるお客さんとコミュニケーションを取る際、どのような対応を心がけていたのでしょうか。
うーん、そこまで意識して普段と変えたりはしなかったですが……。重い出来事が起こって体調を崩されている方だったら、「好きなものを食べたり、自分を甘やかして家でゆっくり休まれてくださいね」など、メンタル面を労わる声かけをするようにはしていましたね。
――田舎と都会の暮らしの違いや、良くも悪くも慣れてしまうというテーマは、どこかほろ苦い余韻が残りますが、描くエピソードはどのように選んでいますか。
「田舎と都会の暮らしの違い」「人身事故の多さに最初は戸惑ったけれど今はもう慣れてしまった」など、暮らす場所や景色に影響されて感じ方も変わっていく、心の機微をテーマにしている作品が個人的に好きなんですよね。
「amazarashi」(あまざらし)というアーティストがそういうテーマの曲をよく歌われていて高校生の頃から大ファンなのですが、「ボーカルの秋田ひろむさんだったらこのテーマを歌にしそうだなぁ。どんな歌詞を書くかなぁ」とか、勝手に共鳴しながらテーマ選びをしている節があるかもしれません。
やる気はあっても自己否定感に悩まされてしまう。そんな自分との向き合い方を実体験ベースに描いた本作。客や同僚など、自分と同じように自己否定感に苦しむ人との交流で得たものとは。耳かき専門店の裏側と併せて、森民さんの変化をご覧いただきたい。