変わるきっかけをくれた漫画家志望の同僚が自己否定の“沼”に…彼女は抜け出すことができるか?【漫画家インタビュー】
公開日:2025/7/14

耳かき専門店での勤務経験をオリジナル漫画にしてSNSで発信する森民つかさ(@uouououoza1)さん。自己否定という“沼”にハマってしまっている漫画家志望の主人公が耳かき専門店で働き始め、さまざまな境遇の客たちとの交流を通じて自己否定と向き合う姿と、知られざる耳かき専門店の知られざる裏側を描いた『耳かき専門店で働いて自己否定“沼”から抜け出す話』。著者である森民さんにお話をうかがった。
次第に自己否定の“沼”と向き合えるようになってきた主人公は、「耳かき専門店」で働いた体験談を漫画にしてSNSに投稿し好評を得る。アドバイスしてくれた同僚で漫画家志望の女性にも同じように勧めたところ、拒否されてしまう。主人公は彼女の大きすぎる自己否定感に気づき、向き合うことを決意する。
創作を続けられたのは、知らない自分の一面に出会える瞬間が楽しかったから
――自己否定の沼で諦めかけている漫画家志望の同僚のエピソードは、作中でも描かれているように共感できる部分が多かったと思います。制作しているときはどのような思いで臨まれたのでしょうか?
ナイフでグサグサ刺されまくるような勢いで共感しかなかったですね……。出血多量で死んじまうよ……!って感じでした。正直、描いていてしんどかったです。このエピソードを描くかどうかもすごく悩みました。
でも「もう1人の自分と本体の自分がどんな会話をするかで人生が決まってくる」は、どんな人にでも当てはまるテーマだと思ったので、漫画として残したいと思い描くことにしました。
――“もう1人の自分”に対する見解はとても深みがありました。表現するキャラクターとして巨大なトカゲを選んだ決め手は?
自己否定沼に現れるトカゲ自体は1話の時点から登場しているので、そのまま肥大化して登場してもらいました。
なぜトカゲなのか?は元々、爬虫類のビジュアルが好きでしたし、なんとなく悪そうな表情が映えそうだったからです(笑)。
――主人公が同じ境遇で苦しむ相手と向き合い、漫画家を志す過程の苦難を描いています。ご自身の経験を振り返ってみて思うこと、何がもっとも大変だったのでしょうか?
漫画家を志す過程の苦難。いちばんは向き合いたくない自分と否が応でも向き合わされるところでしょうか。
耳かき店漫画を描くまで漫画で全然上手くいった経験がなかったのですが、振り返ると自分の中の親への怒りとか人間不信みたいなものが良くない方向で作品に放出されちゃっていたのも大きかったなと思います。
自分の中の消化しきれていないドロドロした感情が暴走してしまって、エゴだらけの作品になってしまっていました。
当時の担当さんから「森民さんは絵柄が柔らかくて優しい表現が売りだと思うので、読後感が幸せでほっこりした気持ちになる作品を描いてください。家族モノとかどうですか?」と提案していただいたこともありました。
ですが、「自分の家族に対してトラウマや怒りの気持ちが強いのに、そんなほっこりした家族モノなんて描けない。引き出しがない。自分が満たされていないのに、他人を幸せな気持ちにできるような漫画なんて描く余力がない。あれ?でも私が憧れた大好きな漫画はどれも読んだあと幸せな気持ちにさせてくれた作品ばかりだ。そんな作品に憧れて私も漫画家を志したのに、どうして私は彼らみたいにできないのだろう……」という感じで、ずっと躁鬱(そううつ)状態でしたね。
今まで向き合ってこなかった自分の心の闇と向き合うことでしか、突破方法はなかったなと思います。
――それでも続けてこられた原動力を教えてください。
少しずつでも「私ってこんな表現できたんだ?こんな表情描けたんだ?この描写を描くの楽しいって思うんだ?」ということが増えていったのは、楽しかったですかね。
「もう無理だよ~」と弱音を吐きながらも手を動かして漫画を完成させていく中で、知らなかった自分の一面に出会える瞬間が楽しかったから続けられたのかもしれません。
やる気はあっても自己否定感に悩まされてしまう。そんな自分との向き合い方を実体験ベースに描いた本作。客や同僚など、自分と同じように自己否定感に苦しむ人との交流で得たものとは。耳かき専門店の裏側と併せて、森民さんの変化をご覧いただきたい。