バツイチ女性の夜勤明けの一杯! ヒット小説『ランチ酒』がコミカライズ。原田ひ香×高田サンコで語る「おいしさの秘密」【インタビュー】

マンガ

公開日:2025/6/26

※本記事は、コミックス『ランチ酒』3巻巻末収録の特別対談からの転載です。

 コミカライズ版『ランチ酒』第3巻の刊行を記念し、原作・原田ひ香さんと作画・高田サンコさんのお二人による特別対談を実施! 原作小説の誕生秘話や、漫画版ならではの魅力についてお話しいただきました。

advertisement

――まずは、コミカライズのお話が出た際のご感想はいかがでしたか。

原田:自分の作品を漫画化していただいたのはこれが初めてで、やっぱり小説家としては一つ夢が叶ったというか、とても嬉しい驚きでした。しかも、高田さんは『たべるダケ』や『細村さんと猫のおつまみ』など、オリジナルの漫画も描かれているじゃないですか。元々作品を存じ上げていたので、光栄に思う反面、「そんな、いいの?」って(笑)。

高田:知っていてくださったんですね! ありがとうございます。私もお話をいただいた時は「やったー!」という気持ちでした。原作の小説は、文章が本当に読みやすくて。祥子さんの気持ちになってスルスルと読んでしまいましたし、絵にしたイメージもすごく湧きやすかったんです。

原田:漫画家さんにそう言っていただけると嬉しいですね。

高田:変な言い方かもしれないんですが、「今にも漫画が描き出せそうだ」って。

原田:正直に言うと、このシリーズを書き始めた時は、こんなふうに漫画にしていただけるなんて思ってもみませんでした。小説の編集さんと「夜仕事をしている人が主人公で、朝か昼がその日最後の食事になるから、一緒にお酒を飲んで」っていう話をするところから始まって、それがありがたく連載になって…。

高田:「夜勤上がりのランチ酒」って、すごく独特な設定ですよね。それは何がきっかけで思いつかれたんですか?

原田:作品にも出てくる場所ですが、大阪の阿倍野にちょっとだけ住んでいたことがあって。そこは「昼から飲めます」って看板を掲げているお店がすごく多かった(笑)。私もつい、午前中に仕事を済ませてランチを食べながらお酒を飲んだりして。その解放感がすごくよかったので、書いてみたいなと思ったんです。

■「漫画版の祥子さんは、黒木華さんをイメージ」

高田:主人公の祥子さんも、色々と背負っているものがある人ですよね。自分も小さい子どもがいるので、娘の明里ちゃんと離れて暮らしているところに、胸がギュッと締め付けられました。

原田:そうですね。最初は婚活中の若めな女性のイメージで、そんなにバックボーンを乗せていなかったんですけど、編集さんに「もうちょっと重みが欲しい」と言われて、バツイチでアラサーで子どもがいて…という、少し暗さを持った人物になりました。

高田:その重みがあるので、漫画での祥子さんのデザインには結構悩みました。最初、「影を背負わせよう」と思って大人っぽい感じにしたら、漫画の編集さんから「そうじゃない」と言われて(笑)。今の祥子さんは、俳優の黒木華さんをイメージしたビジュアルなんです。内に抱えているものが過酷だからこそ、外見には親しみやすさを出してバランスを取ろう、と。

原田:あの、ちょっと太めの眉毛が素敵ですよね! メイクでも「眉は大事」っていいますけど、上がったり下がったり、すごく表情豊かに見せてくれて。明里ちゃんもすごく可愛いですし。

高田:ありがとうございます。

――「見守り屋」の依頼人たちをはじめ、毎回さまざまな登場人物が出てくる作品ですが、漫画版で印象的なキャラクターはいらっしゃいますか?

原田:3話に登場する祥子さんのお父さんですね。俳優の高倉健さんじゃないですけど、「自分、不器用ですから」みたいな台詞が似合いそう。北国の朴訥な人という感じがよく出ていますよね。3話の回想で、お父さんが結婚の挨拶にきた義徳さんに頭を下げるシーンがあるじゃないですか。自分も小説では「地面に着くほどに頭を下げていた」と書いていたのですが、改めて絵で見るとすごく深く頭を下げていて…。ずーっと心に残っていました。

高田:私も祥子さんのお父さんは思い入れがあるというか…。自分が若い時に父親を亡くしているので、「お父さん、しっかり描きたいな」って。単純な動機ですけど。

原田:そうだったんですね。元子さんや「見守り」の依頼人など、年配の人が多く出てくる作品なので、「この年を重ねた感じは、絵にするのが難しいんじゃないか」と勝手に思っていたんですけど、毎回すごくよく表現していただいているなぁと。

■「義徳さん、祥子さんの扱い、ちょっとひどくない!?」

高田:私のお気に入りは、9話に出てくるお金持ちの新藤さんです。「ここの家賃、37万」の(笑)。ネームを描き出した時に「あっ、すごい好きだな」って。勝手に活き活きと動いてくれて、編集さんにも「すごくいいキャラですね」と言われました。

原田:新藤は、知り合いにいるああいう感じの人を、2人くらい合体させたキャラクターなんです(笑)。それこそ、すごく社会的地位のある人なのに、「あの地下アイドルの娘は俺のことが好き、なぜなら目がよく合うから」とか言っちゃうような。人間味があって憎めないなぁと思います。

高田:愛すべき人ですよね。あとは、祥子さんの元夫・義徳さんが個人的に気になっています。再婚の話をちょっとガヤガヤしたお店で切り出したり、明里ちゃんとなかなか会わせてくれなかったり、「義徳さん、祥子さんの扱い、ちょっとひどくない!?」って、しばしば怒りながら描いています(笑)。

原田:義徳さんは、ちょっと雑な人。もちろん最初からああいう感じだったわけじゃないし、愛情もなかったわけではないと思うんですけど…。「すれ違いがある結婚だったから、だんだんとあの形になってしまった」というのは出したかった。まあ、それにしてもちょっとひどいですよね(笑)。

■「コロナ禍での閉店と値上げが…」

――『ランチ酒』は、毎回登場するご飯とお酒も非常に魅力的です。

高田:原作に出てくるお店は、どれも実在のお店をモデルにしているんですよね。漫画にする時にも実際に「ここかな?」というお店に食べに行ったりしているんですけど、実は私がお酒を全然飲めなくて。担当編集さんも下戸なので、その時だけ編集長がついてきてお酒を飲んでくれるという(笑)。

原田:ええ、そうなんですか! ちなみに、お気に入りのお店とかってありましたか?

高田:7話に出てきた、十条の肉骨茶です! スパイシーでお肉も軟らかくって、脂が多そうな部位なのにあっさりしていて。すごく元気が出る味でした。

原田:肉骨茶は、シンガポールに住んでいた時に私もよく食べに行っていたんです。日本でも食べたいなと思っていたら、十条にお店があって。あそこの商店街の雰囲気も、私はめちゃめちゃ好きなんですよね。

高田:いい街ですよね、十条。行けるお店にはだいたい行っているんですけど、コロナ禍を経て閉じてしまったお店も結構あって…。そういう場合は、「祥子さんなら、このお店に入りそうじゃない?」というところを近くで探していたりします。

原田:ああ! 私も「去年来た時はあったのに!」ってなることが多いですね。

高田:そうなんです。あと多いのは、値上がりしているパターン。2~3割価格が変わっているところも普通にありますね。「お店も大変だろうなぁ」と世知辛さを感じます。

原田:それにしても、食べ物や飲み物の絵は、どうやったらあんなにおいしそうに描けるんでしょう。

高田:実際に食べに行った時の写真をなぞりながら、「おいしくなれー、おいしくなれー」って念じながら描いています。私の場合、想像で描いちゃうと、どうしてもおいしそうに仕上がらないんです。

原田:なるほど! 食べている時の祥子さんの表情も良いですよね。みずみずしくて品があって、ちょっと色っぽい。高田さんの過去作でもそこが印象的だったので、作画者さんとしてお名前を伺った時に「あっ、あの漫画家さん!」とすぐに思い出しました。

高田:そんな、本当に恐縮です…。ありがとうございます。

■「漫画を読むようになったのは40歳を過ぎてから」

原田:実は私、漫画を読むようになったのは40歳を過ぎてからなんですよ。読み始めたら止まらなくなってしまって、それこそ漫画家さんが主人公の作品とかも読んでいたり。なので、高田さんから1話のネーム(漫画の設計図)をいただいた時は、「これがあの『ネーム』か!」って感動しちゃいました(笑)。原稿に仕上がるとまた違った印象にもなりますし、本当に毎回楽しませていただいています。

高田:漫画にする時は、いつも「これでいいのかな」とドキドキしています。原作は独特なテンポ感がすごく素敵なので、漫画にすることでそれを台無しにしてしまってはいないだろうか、と…。

原田:お世辞じゃなく、私は小説よりも漫画版の方が深い話になっているんじゃないかと思うんですよ。高田さんの絵の力や、アレンジや漫画ならではの表現で、より立体的に見えるというか…。自分で書いた話のはずなのに、漫画で読むとグッときちゃう。

高田:そう言っていただけると、すごくホッとします。『ランチ酒』って、祥子さんが色んな人たちとの関わりの中で、少しずつ変わっていくお話でもありますよね。心にじんわりとくる場面がたくさんあるので、自分もできるだけ良い形で漫画に描けたらなと思います。

原田:ありがとうございます。これからも楽しみにしています!

文=伊東杏奈

あわせて読みたい