漫画が上手くいかず悩んでいた時に……未来を変えた“夜逃げ屋”との出会い【著者インタビュー】

マンガ

公開日:2025/7/8

 漫画家を目指すもなかなか芽が出ず、悩む日々を送る宮野シンイチさん。そんな時に、特殊な引越し業者「夜逃げ屋」を取り上げたテレビ番組を偶然視聴。出演していた社長を「漫画にしたい!」と本人に直接電話したら、なぜか自分も夜逃げ屋で働くことになり――。DV、毒親、宗教二世信者…さまざまな事情を抱えた人々からの依頼で実際に働き、そこで起きた出来事を漫画にしたのが『夜逃げ屋日記』(宮野シンイチ/KADOKAWA)だ。私たちとなんら変わらないように見える人、家庭なのに、一歩踏み入れると見えてくる衝撃的な現実。夜逃げ屋として働く人々の持つ過去。目を塞ぎたくなるような事実から目を背けず、しかし笑いも忘れず、時に温かい言葉に涙する。そんな宮野さん独特の筆致で描かれた本作が生まれた経緯から裏話まで、さまざまなテーマで話を聞きました。

――本作では実際に働かれている夜逃げ屋を知ったのはTVがきっかけだったと描いてありました。それ以前は夜逃げ屋という職業があること自体はご存じでしたか?

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宮野シンイチさん(以下、宮野):夜逃げ屋をテーマにしたドラマを観たことがあったので存在自体は知っていたのですが、なんとなく「借金取りから逃げる人に手を貸すのかな」くらいの認識でした。でもその番組ではDVから逃げる人が夜逃げするところを放送していて。本当にまったく知らなかった世界で、だからこそ興味深いなと感じたんです。

――その興味が「漫画にしたい」になっていったのはなぜでしょうか?

宮野:当時はバトル系漫画の原作者をやりたくて、とある商業誌に持ち込んだりしていました。でも「どうやら自分には才能がないな」と感じていたところで。現実世界のドラマを描く方が向いているかもしれないなと考えていた頃にこのTVを観たので「これだ」と感じたんだと思います。でも電話しようとするとすごく緊張してしまって。「明日かけよう」と思ってもいざとなると「もうちょっと後でいいか」と思ったり……。最終的にはかなりの勇気を振り絞って電話をかけました。

――漫画では最初「友達が夜逃げしたくて」という嘘をついて話を聞こうと思ったとありました。

宮野:そうなんです。土壇場で「これからお世話になるかもしれない人に嘘をつくのはやばいな」と思って正直に話したんですが、それを後で社長に伝えたら「私は嘘ついてるかわかるから。その時嘘ついてたら付き合ってないね」と言われて。嘘をついていたらこの漫画は出来上がっていないですね。

取材・文=原 智香

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