シビアな夜逃げを一手に引き受ける社長……その素顔は?【著者インタビュー】
公開日:2025/7/9

漫画家を目指すもなかなか芽が出ず、悩む日々を送る宮野シンイチさん。そんな時に、特殊な引越し業者「夜逃げ屋」を取り上げたテレビ番組を偶然視聴。出演していた社長を「漫画にしたい!」と本人に直接電話したら、なぜか自分も夜逃げ屋で働くことになり――。DV、毒親、宗教二世信者…さまざまな事情を抱えた人々からの依頼で実際に働き、そこで起きた出来事を漫画にしたのが『夜逃げ屋日記』(宮野シンイチ/KADOKAWA)だ。私たちとなんら変わらないように見える人、家庭なのに、一歩踏み入れると見えてくる衝撃的な現実。夜逃げ屋として働く人々の持つ過去。目を塞ぎたくなるような事実から目を背けず、しかし笑いも忘れず、時に温かい言葉に涙する。そんな宮野さん独特の筆致で描かれた本作が生まれた経緯から裏話まで、さまざまなテーマで話を聞きました。
――TVを観て夜逃げ屋に興味を持ち、電話をした結果、社長に会うことになるわけですが、初めて社長に会った時の印象はどんなものでしたか?
宮野シンイチ(以下、宮野):他の漫画だと裏稼業の人って怖い人が多いじゃないですか。だから会う前は「怖い人なんやろうな」と思っていたんですが、全然そんなことはなくて。話しやすくて気さくな方でしたね。そういう人じゃないとDVを受けたりストーカーされている人は相談しづらいよな、と今では思います。それに他のスタッフさんは時間が経つと意外な一面を感じたりするんですが、社長は初めから全部さらけ出してくれていたというか、印象が一貫しているんですよね。長く付き合ってから知ったことももちろんありますし、僕もまだ見られていない部分もあるとは思いますが、印象としては最初からずっと変わっていない、裏表がない人です。
――社長の服装はいつもサングラスにコートですが、実際の服装なんですか?
宮野:サングラスは持ってはいるけどかけてはいないですね。イメージとしては社長が好きなパンダと、小さい頃のあだ名であるピノコから漫画上でのビジュアルは考えていきました。あと服装については、商業誌の持ち込みをしていた時に、「漫画は背景が白いから黒に目がいきやすい」というのを教えてもらったので、参考にしています。
――依頼者の方も働いている方も、“夜逃げ屋”にはそれぞれ事情を抱える方が集まる中で、そんなみなさんをまとめられる社長のすごさというのはどんなところにあると思いますか ?
宮野:やっぱり社長もDVを受けた経験があるから、そういう人に寄り添えるんだと思うんですよね。どん底というか、辛い経験をしているからこそ辛い経験をした人に寄り添えるし、「この人だったらついていきたい」と働いている人たちも思うんだと思います。
それに社長は利益の少ない仕事も引き受けたりしていて、どこか人情が働いている部分もあると思うんです。「この人はお金だけで動いているんじゃないんだな」ということがわかる行動が、スタッフみんなの心に響いているのかなと思います。
取材・文=原 智香