手紙や座談会での交流。ずっと続いていく夜逃げ屋とその依頼者との絆【著者インタビュー】
公開日:2025/7/12

漫画家を目指すもなかなか芽が出ず、悩む日々を送る宮野シンイチさん。そんな時に、特殊な引越し業者「夜逃げ屋」を取り上げたテレビ番組を偶然視聴。出演していた社長を「漫画にしたい!」と本人に直接電話したら、なぜか自分も夜逃げ屋で働くことになり――。DV、毒親、宗教二世信者…さまざまな事情を抱えた人々からの依頼で実際に働き、そこで起きた出来事を漫画にしたのが『夜逃げ屋日記』(宮野シンイチ/KADOKAWA)だ。私たちとなんら変わらないように見える人、家庭なのに、一歩踏み入れると見えてくる衝撃的な現実。夜逃げ屋として働く人々の持つ過去。目を塞ぎたくなるような事実から目を背けず、しかし笑いも忘れず、時に温かい言葉に涙する。そんな宮野さん独特の筆致で描かれた本作が生まれた経緯から裏話まで、さまざまなテーマで話を聞きました。
――依頼者の方とのエピソードもたくさんありますが、その方々はどうして宮野さんに心を開いてくれたんだと思いますか?
宮野シンイチ(以下、宮野):最初の頃は社長も僕が依頼者にしちゃいけない質問をするんじゃないかと警戒していたみたいで、そんなにインタビューする機会はなかったんです。と言っても僕自身あまり「じゃあお話しましょう」みたいに話をしようとも思っていなくて。DV被害者の方と喋る機会があっても、DVの話を聞こうとはあまり思いませんでした。作中でも戦車の話で盛り上がるエピソードがあるのですが、その時のように、梱包する荷物から趣味がわかるので、「これ好きなんですね、面白いですよね」といった話をしていますね。梱包中は緊迫しているのでなかなか話せないんですけど、終わった車の中とかで話したりして。そこに話したくないことを組み込む必要もないかなと思っていたんです。狙ってそうしたわけではないんですけど、結果的にはそれが心を開いてくれた理由なのかな、と思います。
――取材しようというよりは「その人のこと知りたい」みたいな気持ちでお話しされていたんですね。依頼者のその後が描かれている場合もありますが、その後も連絡を取っている方もいるんですか?
宮野:夜逃げをした方が集まる座談会があるんです。僕も出席させていただいているので、その時お話を聞いたりすることが多いですね。あとは知らない土地で生活するのも何かと不安なことが多いと思いますし、事情を知っている人もそんなに周りにいないからと社長とずっと繋がっていたいと連絡をくれる方が多くて。漫画が出るたびに社長に感想をくれて、それを社長から聞いたりすることもあります。座談会に参加した依頼者さんからは「自分のことのように嬉しいです」と言ってくれた方もいて。僕からしたらもうそれが嬉しいんですよ。
取材・文=原 智香