描いても描いてもボツだった不遇時代……自身の姿をカメレオンにした深い理由とは?【著者インタビュー】
公開日:2025/7/15

漫画家を目指すもなかなか芽が出ず、悩む日々を送る宮野シンイチさん。そんな時に、特殊な引越し業者「夜逃げ屋」を取り上げたテレビ番組を偶然視聴。出演していた社長を「漫画にしたい!」と本人に直接電話したら、なぜか自分も夜逃げ屋で働くことになり――。DV、毒親、宗教二世信者…さまざまな事情を抱えた人々からの依頼で実際に働き、そこで起きた出来事を漫画にしたのが『夜逃げ屋日記』(宮野シンイチ/KADOKAWA)だ。私たちとなんら変わらないように見える人、家庭なのに、一歩踏み入れると見えてくる衝撃的な現実。夜逃げ屋として働く人々の持つ過去。目を塞ぎたくなるような事実から目を背けず、しかし笑いも忘れず、時に温かい言葉に涙する。そんな宮野さん独特の筆致で描かれた本作が生まれた経緯から裏話まで、さまざまなテーマで話を聞きました。
――ご自身の作画がカメレオンの姿になっているのはなぜですか?
宮野シンイチ(以下、宮野):まずひとつが人間の顔にすると、例えばキメ顔を書いている時に「いや、こんなにかっこよくないけどな」と思ってしまうんですよね(笑)。抵抗があるというか。もうひとつはこの作品を描く前にも夜逃げをテーマにした漫画を描いていたんですが、それが連載会議まで行っても落ちるのを繰り返したんですよ。友達とか先輩とかに見せても、いまいち反応が悪くて。それで試行錯誤しているうちに、自分をカメレオンにしたら評価が良くなったんです。その時友達から「これまでのは暗くて、正直お前が持ってきたから読んだけどそうじゃなかったら読まなかった。でもカメレオンだと画面が可愛くなって読める」と言われて。それでカメレオンで行こうと決意しました
――動物の中でも、カメレオンを選んだ理由はありますか?
宮野:これはちょっと恥ずかしいんですけど、原作者を目指していた時「色んなジャンルの漫画を書けるようになりたい」と思っていたんです。恋愛漫画もバトル漫画も、なんでもできたら一人前だなと。それで「作品によって色を変える」みたいな意味を込めました。ちょっとクサいですけどね(笑)。
――いやいや、とても腑に落ちました。宮野さん以外にも魅力的な方がたくさん出てくる本作ですが、人気なのは誰なんでしょうか?
宮野:実は社長が『夜逃げ屋日記』を読んで依頼してくださった方とかに「誰が一番好きなの?」って聞いているらしいんですよ。それによるとブルさんの人気がすごいらしいです。次点で社長とドラゴンさんだって言っていましたね。「僕は?」って感じですけど(笑)。でもそれ以外の方の名前も結構あがるらしくて。それぞれのキャラクターを好きになってくれていて嬉しいです。
取材・文=原 智香