都会暮らしの青年が田舎の観光協会へ転職! だけど「スローライフ」はそう甘くなく…移住生活の優しさと厳しさを丁寧に描く【書評】

マンガ

公開日:2025/7/4

 自分の気持ちに正直に生きるって、むずかしい。そんな悩めるだれかの背中を押してくれるのが『春風ふるさと観光協会』(佐倉イサミ/KADOKAWA)だ。本作は田舎への移住を決めたサラリーマンの成長をあたたかく描く。

 主人公の春太は、いつも周囲に合わせてきた27歳の会社員。相手の気持ちを優先しすぎて、自分の感情を見失ってしまう――そんな経験がある人には、春太の姿が他人事ではなく映るだろう。

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 春太は、営業先で「意志がない」と言われたことが引き金となり、一人旅へと出る。旅先・飛騨高山で、自分が本当に惹かれるものに出会い、結局この旅をきっかけにして「花村町」への移住と観光協会への転職を決意するのだった。

 しかし、花村町での生活は夢見たスローライフとは違い、甘くはなかった。移住者に冷ややかな目を向ける同僚や一部の住民に、日々の生活の不便さ。例えば17時で閉店してしまう小さな商店、大量の虫、寝床に現れるムカデなど、東京とはまったく異なる生活に右往左往する毎日だ。田舎暮らしの理想だけでなく、現実もしっかり描かれている点が本作の魅力でもある。

 観光協会での仕事もまた、派手さからは程遠い。観光客の少ない町では、草むしりや宴会の準備など、雑務のような仕事も多い。かつてバリバリと働いていた春太にとって、それは物足りなく感じられることもあった。

 それでも春太は、移住を「失敗」とは捉えない。自分が初めて心からやりたいと思えたことだから、逃げ出さないのだ。外から来た人間だからこそ気づけること、できることを丁寧に積み重ね、信頼を築いていく。何よりも、日々目にする雄大な自然に彼の心はやっぱり救われていくのだ。誠実で真っ直ぐな春太の姿をみると、エールを送りたくなってしまう。

 今、自分の気持ちに迷いがある人、自分の人生を見直したいと思っている人にとって、春太の選択や行動は共感を呼び、励みになるはずだ。まずは自分と向き合う時間を取ってみること。そして「好き」を見つけたなら、あとはそれに実直に向き合っていくこと。春太の姿は、そんな大切なことを優しく伝えてくれる。

文=ネゴト / fumi

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