いい子でいるしかなかった――我慢を強いられ、家族を支え助ける役割を持たされた「きょうだい児」の心の叫び【書評】
公開日:2025/7/29

※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
『きょうだい、だけどいや ケアをさせられたきょうだい児だった、けど』(のまり/竹書房)は、重い病気などを持つ兄弟姉妹を支え続ける「きょうだい児」の心の葛藤を描いたコミックエッセイである。
主人公・手塚ナミには、小児喘息を患う妹がいる。幼い頃から「お姉ちゃんなんだから」と言われ続け、家族を支える役割を求められてきた。自分だって親に甘えたい、大事にされたい。そんな思いを心に押し込めて我慢を続けてきたナミ。だが、大人になった彼女は、母親の何気ない言葉をきっかけに、積み重ねてきた感情があふれ出す。
ナミが我慢を強いられてきた過去のエピソードを読み進めるうちに「母親はもう少し配慮できたのでは……」と思わずにはいられない。けれど同時に、病を抱える子を必死に守ろうとする親としての苦しみも伝わってくる。だからこの問題は決して善悪だけでは語れないのだと、あらためて考えさせられる。
特に胸を打ったのは、妹からの「死にたい」というメッセージに対し、母親が「こんなこと言う娘をどうして産んじゃったのかしら」と思わず弱音を吐く場面。母親自身も限界を迎え、ナミに「ねえ、どうしたらいい?」と頼る姿からは、家族それぞれが抱えるしんどさが静かに伝わってくる。
病気や障害を持つ子も、支える親も、そして「きょうだい児」も、それぞれに葛藤や苦しみを抱えている。そして往々にして、きょうだい児は「我慢できる子」として後回しにされてしまいがちだ。家族だけでは重すぎるケアの現実に、読みながら何度も考えさせられる。
本作から伝わってくるのは、恨みや怒りではなく「寂しかった」「自分の思いにも気づいてほしかった」という気持ちだ。もしその時、誰か一人でも彼女の心に寄り添ってくれる存在がいたならと考えずにはいられない。
今まさに家族のことで悩んでいる人、かつて「いい子でいなければ」と頑張ってきた人に、そっと手渡したい一冊だ。