どんなBL好きにも勧めたい、スーツBL。花丸が魅せる、ハイスペ意地悪上司×真面目部下の繊細な心理描写【書評】

マンガ

公開日:2025/7/4

アフター・ミッドナイト・スキン
アフター・ミッドナイト・スキンにむまひろ / 白泉社

 生真面目なサラリーマン、虎谷は激務続きで性欲が溜まっていた。ある晩、ひとりで残業中につい、むらむらしてしまい、トイレで自分を慰めていたところ、上司の犀川に察せられてしまう。そして彼から、このことをバラされたくなかったら……と“恋人”になるよう要求されてしまう。

 「マンガPark」で大人気連載中の、にむまひろ氏の『アフター・ミッドナイト・スキン』(白泉社)。ちょっぴり意地悪な上司・犀川と、彼に弱みを握られてしまう部下・虎谷の織りなすスーツBLだ。主人公、虎谷の性格はいたって真面目。けれど自分でも持て余すほど強烈な性欲を抱えており、日々悶々としている。いわゆる“隠れ淫乱”だ。

Ⓒ にむまひろ/白泉社
Ⓒ にむまひろ/白泉社

 対する犀川は、何事もそつなくこなすハイスペ男性。虎谷の性欲が過剰であることを敏感に見抜き、肉体関係を強要する。かたちとしては「脅し」なのだが、だからこそ存分に乱れることのできる状況を虎谷に提供してあげている、ともいえる。そうした、ほんのり精神的SM関係も香ばしく、身体を重ねるにつれて心まで重なってゆく性愛描写の積み重ねが、実にエロティックにして繊細だ。

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Ⓒ にむまひろ/白泉社
Ⓒ にむまひろ/白泉社

 紆余曲折を経て、4巻でとうとう本当の恋人同士となった2人。5巻では新入社員教育に悪戦苦闘する虎谷と、そんな彼を、メンターとして、恋人として、見守る犀川が描かれる。加えて犀川の実家事情もじょじょに明かされて、物語の展開とともに世界が広がってくる。仕事に悩んだり、家族との関係に葛藤したり。恋愛以外の要素も共有することで、2人の強度も増していく。

 最新6巻では、初期の頃から気になる動きを見せていた第三の男、鳥野がついに動きだす。新規プロジェクトで、仕事先である鳥野と関わることが増える虎谷。本人はまったく意識していないが、犀川(と読者)には、鳥野が彼に好意を抱いているのは一目瞭然だ。仕事が忙しく、最近すれ違いぎみになっていることもあり、いつになく嫉妬の気配を見せる犀川。

Ⓒ にむまひろ/白泉社
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 これまで常に余裕を漂わせていたこの男が、そうではない表情を見せるようになってくるのが、この巻最高の見どころだ。虎谷のことが本当に好きだから、恋敵に獲られたくなくて苛々する。犀川がここまで脅威に感じている鳥野がまた魅力的な男性なのだ。押し出しのいい犀川とは対照的に落ち着いた物腰で、個人的には鳥野さんの方が好き……(これはただの感想です)。

Ⓒ にむまひろ/白泉社
Ⓒ にむまひろ/白泉社

 これまで知らなかった嫉妬の感情や不安を知った犀川は、今までとは違う表情をするようになっていく。新しい自分に気づいたみたいなその表情に、はっとさせられる。おそらく彼はだんだん虎谷を愛しはじめているのだろう。自らの胸の内を吐露し、弱い自分をありのまま相手にさらけだそうとする覚悟、勇気。虎谷もまた、犀川がとうとう心の扉を開けてくれたことに胸打たれる。

Ⓒ にむまひろ/白泉社
Ⓒ にむまひろ/白泉社

 改めて心を通いあわせたのちに交わされるセックスには、愛情とエロスがあふれんばかりに詰まっている。まるで「初めて」みたいに初々しくて微笑ましい。

Ⓒ にむまひろ/白泉社
Ⓒ にむまひろ/白泉社

 甘々な心理戦からはじまり、心の溶けあった恋人同士へ至った彼ら。ストーリーの緩急、繊細な心理描写、濃密な官能――すべてが花丸だ。エロス重視派にもドラマ重視派にも、ぜひ読んでみてほしい。

文=皆川ちか

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