不良が少女を助けたのに、感謝されない——。王道展開を裏切る、キャラ同士の絶妙な距離感【漫画家インタビュー】

マンガ

公開日:2025/7/4

 最新の書籍や人気の漫画作品の情報を発信する「ダ・ヴィンチWeb」。今SNSを中心に話題を集めているホットな漫画を、作者へのインタビューを交えて紹介する。

 ピックアップした作品は『事情がありそうな女児とスルーできない不良の話』。不良男子と女子小学生がひょんなことから友情を深めていく様子をコミカルに描いた本作は、X(旧Twitter)やpixivを中心に人気が高まっており、1万以上のいいねが集まる投稿も。

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 作者・pon(@comicpon)さんにインタビューを行い、創作のきっかけやこだわりについて語ってもらった。

 どしゃぶりの放課後、傘がなくて困っていた女子小学生の前に現れたのは、見た目はちょっといかつい不良男子。彼は女の子に自分の傘を差し出す。「おうガキんちょ、この傘やるから帰れ」。そんな不愛想な一言をきっかけに、ふたりのちょっぴり不思議な交流が始まった。

 それ以来、通学路で会うたびに、まるで掛け合い漫才のような軽妙なやりとりを繰り広げるようになったふたり。どうやら女の子には家に帰りたくない事情があるらしく、男子学生は少しずつ、その胸の内を気にかけるようになる。

 一見ワルなのに実は面倒見が良い男子学生と、口は達者だけどどこか寂しげな女子小学生が、ふとした偶然から心を通わせていく様子が読者の胸にやさしく迫る。小さな偶然がつないだ友情に癒やされる、ハートフルな日常漫画である。

“不良男子が女の子を助ける”という王道ネタに、ひとひねり加えたかった

ーー女子小学生と不良男子の関わりを描こうと思ったきっかけや理由を教えてください。

 もともとインターネット上(主にX)で、さまざまな状況に置かれた人たちの奮闘を描く漫画シリーズ『最後はハッピーになる話』を描いていました。あらゆるシチュエーションを考える必要があるのですが、その中でも困っている人や動物を不良男子が助けるという展開は、漫画作品における王道なネタとして知られています。

 そこで今回、王道の流れにひとひねり加えられないかと考え、「助けたはずの女子小学生が口達者で、素直に感謝しない」という状況があったら面白いのではないか? と思いついたことから、このような話が生まれました。

ーーこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントを教えてください。

 こだわった点は、不良男子が感じたり思ったりしたことを、読者が想像したり、感じ取ったりしてもらうための描写でしょうか。そのため、不良男子の心の声は、あまりセリフにしないようにしました。詳しく説明しなくても、その後の不良男子の行動やセリフを見てもらえれば、彼が何を感じたのか、考えたのかがわかってもらえると思ったからです。

 そういう意味でも、特に見てほしいポイントはふたりの掛け合いですね。ネームを描いている段階でも、そのやりとりを描くのが非常に楽しく、ほとんど詰まることなく、掛け合いや展開がスルスルと形になっていきました。

ーー特に気に入っているシーンやセリフを教えてください。

 気に入っているのは、アミューズメント(ゲームセンター)に行くのを阻止しようとする女子小学生の話です。おそらく女子小学生のほうは気づいていないのですが、不良男子が彼女の意図を組んで、負け続けているところはオチとしても気に入っています。

 気に入っているセリフを挙げるとすれば、先ほどお話したように、不良男子の心の声をあえて描かないようにしているため、やはり「……(無言)」のシーンになるかと思います。

ーー女子小学生と男子学生の掛け合い漫才のようなやりとりに引き込まれました。モデルとなった人物や参考にした作品などはありますか?

 モデルとなった人物は……特にいないと思います。最初にひらめいた「こんな話だったら面白いのでは?」というアイデアから自然に生まれたキャラクターたちです。

 明確に「これが元になっている」と言えるような作品は思い当たりませんが、これまでに読んできた数多くの作品が、不良男子の性格づけや、女子小学生の素直ではない一面に影響を与えているのは間違いないですね。

ーー不良男子が困っている女の子を助けるというエピソードには、ご自身が実際に見聞きした出来事は含まれているのでしょうか?

 そんな素敵な場面を目撃したことは、残念ながらないですね……。今回の話はすべて、あくまで想像から生まれたものです。

「困っている小学生を助ける不良」というギャップのある設定には、やはり惹かれるものがありますよね。できれば、そういう優しさに溢れた世界や、ほっとできるような温かい出来事が現実にたくさん生まれたら良いなという願いを込めて描いている部分があります。そのため、この漫画シリーズでは基本的に、最後はハッピーな雰囲気で終わるよう心がけています。

ーーもし続編やスピンオフを描くとしたら、今後、女子小学生と不良男子の関係はどうなっていくと思いますか?

 本作は、もともとは最初の「不良男子が女の子に傘をあげる話」のみの単発エピソードとして描いたものでした。しかし、この話自体に思いがけず多くの反響をもらえたことから、しばらくして「続きを描くのもありだなぁ」と考えるようになりました。とはいえ、毎回雨の中の話にするわけにもいきませんし、どうしようかなと。

 そんな中で、そもそも女子小学生と不良男子が毎回絡むのも不自然なため、「何か背景があるのではないか?」と想像を広げていった結果、「女の子が家に帰りたくないような事情があるのかもしれない」と考えるに至りました。そうなると、それを察した不良男子も放っておくことはしないだろう――そんな思いから、その後の物語の基盤が形作られていきました。

 もしさらに続きを描くのであれば、「女子小学生にはいったいどんな事情があるのか?」「それに対して不良男子はどう動くのか?」という部分について掘り下げますね。しかし一方で、そうなるとシリアスに傾きすぎる気もしていて、作品全体の雰囲気が暗くなってしまうのではないかという懸念もあります。

 そう考えると、むしろ今のようなふたりの掛け合いや、やさしい空気感が続いていく構成のほうが良いんじゃないかとも感じています。お互いに深入りはしないけれど、でもなんとなく信頼し合っているというような。

 そのあたりは続きを描くときに、そのときどきの物語の流れや反響を考慮して柔軟に決めていければと思います。

ーー今後の展望や目標を教えてください。

 これまで漫画家としてあれこれ活動を続けてきましたが、いまだ単行本を一冊も出せていないので、いつか出したいですねぇ。

 そのためにも、現在出しているKindleなどの電子書籍や、インターネット上で発表している漫画を多くの方に読んでもらって、より注目していただけるよう頑張ってまいりたいと思います! その先を見れば夢や願望は尽きることがありませんが……。今は自分の胸にとどめておきます。

ーー作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。

 いつも応援ありがとうございます!! いいねやリポスト、コメントなどの反響や反応がすごく励みになっております!

 これからも、何かしら皆さんがほっこりできるような、楽しめるような漫画を描き続けていきたいと思います。

 今回の話を含めた漫画『最後はハッピーになる話』がKindleの電子書籍から出ており、現在無料で全巻読めますのでぜひたくさん読んでほしいですね! そしてまた、これからも応援、よろしくお願いしますーーっ!

取材・文=ネゴト / 糸野旬

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