見るからに怪しい二人がカルガモのお引っ越し見守り隊に。見た目は極悪、中身は純真無垢な長髪&短髪男のゆるくて優しい日常【書評】

マンガ

公開日:2025/7/29

 長髪に黒ずくめ、鋭い目つき。そんな風貌の男性が、街中でおばあちゃんの荷物をそっと持ってあげていたら、あなたはどう感じるだろうか? 「見た目が9割」と言われるように、私たちはつい外見だけで人を判断してしまいがちだ。

見るからに怪しい二人』(鬼澤馬勇/KADOKAWA)は、そんな社会のあり方をユーモアで包み込み、優しく問いかけてくる作品だ。登場するのは、「長髪」と「短髪」と呼ばれる、どう見ても悪人にしか見えない男二人。見た目は怪しさ満点だが、その中身は驚くほどピュア。まるで小学生のように素直な会話を交わしながら、公園でのんびりと過ごす日々を送っている。

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 見た目のせいで日々誤解されがちな二人だが、そんな周囲の視線にも、どこ吹く風。自分たちらしくマイペースに日常を楽しむその姿には、自然と心がゆるむ不思議な力がある。落ちているゴミを拾い、迷子の猫を探し、体調の悪い人をさりげなく助ける。そんなささやかな“善意”の積み重ねが、少しずつ周囲の人々に伝わっていく。

 新刊となる第4巻では、そんな二人の善行がついに地域に認められ、「カルガモお引っ越し見守り隊」に任命されるという、なんとも微笑ましい展開に。警戒されていた彼らが、少しずつ誤解を解き、街に溶け込んでいく様子は、読んでいて思わず胸があたたかくなる。

 相変わらず職務質問を受けたり、見た目で誤解されたりすることもあるが、二人を理解し、寄り添ってくれる仲間は少しずつ増えている。4巻では兄弟や友人たちの登場シーンも増え、彼らを取り巻く人間関係が少しずつ広がり、世界がにぎやかになっていく様子も、本作の魅力のひとつだ。

 もちろん、見た目で清潔感や好印象を与えることも大切だ。けれど、それだけではわからない“人としての本質”がある。この作品は、そうした大切なことを、押しつけがましくなく、二人の飾らない日常とさりげない行動を通して、優しく教えてくれる。

 一見するとシュールでゆるやかな物語。けれど、読めば読むほど二人が愛おしくなり、きっとあなたの心にもじんわりと何かが残る。読後にふと誰かに優しくしたくなる、そんな静かであたたかい一冊だ。

文=ネゴト / すずかん

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