私のほうが幸せだと思っていたのに。嫉妬に翻弄されるふたりのママ友が辿る、見せかけの幸せの崩壊【書評】
公開日:2025/7/30

幸せの形は人それぞれ。他人と自分を比べることには、意味のない苦しさが伴う。しかし、人は精神的に追い詰められると、ついそのことを忘れてしまいがちである。他人の成功や幸福が自分を苦しめるように感じられ、その結果、自らの幸福を実感するために逆に他者を見下したり、優越感を得ようとしたりする心理が働くのだ。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』(すやすや子/KADOKAWA)では、そんな過剰な優劣への執着から歪んでしまったママ友同士の関係の変化が描かれている。
本作の舞台はとあるマンション。生まれたばかりの息子と9歳の娘、そして夫との4人で暮らすサヤカのもとに、同じマンションに越してきたエミが家族で挨拶にやってくる。優しそうなエミとその娘、そして穏やかな夫――、サヤカの目には、エミの一家は、まさに理想の家族のように映った。
サヤカ自身は、不倫をしているモラハラ気質な夫に苦しめられていた。家事にも育児にも非協力的な夫に振り回され、サヤカはワンオペ育児と産後の疲れで限界寸前。それでも「私は幸せ」と自分に言い聞かせ、SNSに“幸せな家族”を装って投稿し続ける毎日。それはどこか空虚だった。
本作の見どころは、一見幸せそうな相手が実際には心のうちに何を抱えているのか傍からは決してわからないという現実が、サヤカとエミの関係の変化を通して丁寧に描かれていることにある。
優しい夫と穏やかな家庭を築いているように見えるエミも、実は二人目の不妊治療がうまくいかず思い悩んでいる。しかし、そんなエミの事情を知らないサヤカはしだいに彼女を妬み、憎む気持ちを募らせるようになるのだ。
心の奥底に秘めた孤独や嫉妬心に翻弄されるふたりの関係は、やがて思わぬ方向へ進んでいく。人間の承認欲求やSNS社会での自己演出といった現代的なテーマを通して、真の幸福とは何か、そして“幸せに見える”ことの危うさについて、静かに問いかけてくる一冊だ。