『鬼の花嫁』最新7巻! 誘拐され、追い詰められた柚子。愛するふたりの前に試練が立ちはだかる――運命の人と甘い恋に溺れる和風シンデレラストーリー【書評】
公開日:2025/7/8

※本記事には作品のネタバレが含まれます。
幾度となく恋に落ち、その恋に破れるたびに思うのは、どうして私には運命の恋を感じ取る能力が備わっていないのかということだ。ある人は甘美な香りがしたと言い、ある人は心臓が激しく波打ち、またある人は吸い寄せられるような感覚がしたと言うが、そんな経験がある人は多くはないだろう。「目の前にいるのは運命の人」だなんて、そんな自信も確信ももてないからこそ、人は恋に悩み、苦しむのだろう。……ああ、私も運命の恋に落ちてみたい。紛れもない、運命の人と、どこまでも甘い恋に溺れてみたい。

読めば、そんなことをつい夢見てしまうのが『鬼の花嫁』(富樫じゅん:作画、クレハ:原作/スターツ出版)。シリーズ累計580万部突破、アニメ化も決定した和風シンデレラストーリー。幻想的な世界の中で育まれる恋の物語には、心奪われずにはいられない。特にコミカライズ版は待望の7巻が刊行され、今、ますます注目を集めている。
舞台は人間とあやかしが共生する架空の日本。美しい容姿と優れた能力を持つあやかしは、地位も権力も人間の上をいく特別な存在だ。しかし、時折、あやかしたちは人間の女性の中から「花嫁」と呼ばれる運命の相手を見出す。あやかしには出会ったその瞬間に「花嫁」とすべき人間が分かるらしい。あやかしにとって、花嫁は己の霊力を高めてくれる唯一無二の存在。花嫁に選ばれた女性は、あやかしから生涯にわたって熱烈に愛され続けることから、花嫁に選ばれることは、女性たちの強い憧れだ。

そんな世界を生きる平凡な高校生・柚子は、家族から不遇な扱いを受ける日々の果て、運命的な出会いを果たした。血のように赤い瞳。人間離れした美しい容姿――その男の名は、鬼龍院玲夜。あやかしの頂点にたつ「鬼」の一族の次期当主だ。突然、玲夜から「見つけた、俺の花嫁」と求婚された柚子。玲夜との出会いは彼女の日常を一変させた。


この物語には、愛することの喜びも難しさも詰め込まれている。たとえば、あやかしからすれば、誰が運命の相手なのかは感覚で分かるのだろうが、人間はそうはいかない。ましてや柚子はずっと妖狐の花嫁に選ばれた妹と比較され、家族からないがしろにされながら育ってきた。「自分を愛してくれる人などいない」と思っていた矢先に出会った玲夜からの寵愛に、柚子は戸惑わずにはいられない。だが、玲夜の愛は柚子の心を優しく解きほぐしていく。こんなにも深く愛されるなんて羨ましい。冷徹であるはずの玲夜が柚子だけに見せる笑顔、柚子への溺愛っぷりには読み手の私たちだってつい身悶えてしまう。

だが、どんな恋にも困難はつきものなのかもしれない。この物語では次から次へと困難が玲夜と柚子に襲いかかる。「鬼の花嫁」に選ばれた柚子を妬む妹・花梨。今まで柚子を虐げてきたというのに、手のひらを返し取り入ろうとしてくる両親。さらに、あやかしや花嫁を含む人々が通う特別な学校「かくりよ学園」へ通うこととなった柚子は、玲夜に敵対心を抱く陰陽師・津守によって、誘拐、監禁されてしまう。
最新第7巻では、学園で出会った蛇のあやかしの花嫁・梓や、学園で再会した柚子の幼馴染・浩介も関わっていることが明らかになる。そこにあるのは人間たちの妬みや嫉み、そして、行き場を失った恋心。だが、玲夜と柚子の絆は決して揺るがない。むしろ、試練はふたりの愛をより強固にする。今まで柚子は平凡な自分、花嫁として未熟な自分に落ち込み、玲夜の優しさに甘えていたが、津守に誘拐された今、自分でもできることをしなければならないと考え、何としても玲夜のところへ戻ることを誓う。一方、玲夜も柚子を救うべく動き出す。いつだって冷静な玲夜が、柚子のことになると冷静ではいられなくない。柚子奪還のために、玲夜をはじめとする鬼たちが津守家を取り囲む場面は圧巻。鬼の強さ、美しさとともに、柚子がいかに愛されているのかを改めて感じさせられる。


スリルあふれる場面にハラハラドキドキさせられたかと思えば、胸がキュンとさせられたり、切なくてたまらなくなったりする場面も。玲夜と柚子の関係だけでなく、敵対する者たちの恋の結末も心揺さぶられる。……ああ、どうして恋はこうも難しいのだろう。だけれども、その思いが通じた時こそ、その幸せはこの上ない。どんどん深まる玲夜と柚子の関係をみていたら、きっとあなたも恋がしたくなるはず。胸キュン必至、スリル満点のラブファンタジーをぜひともあなたにも体感してほしい。
文=アサトーミナミ