母を殺された少年は「鬼」に魂を売り「鬼の力」で復讐を誓う! その大きすぎる代償とは――? ビターなバトルマンガ『鬼門街』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/7/31

鬼門街
鬼門街永田晃一/少年画報社

 可もなく不可もない日々を過ごしていた少年は、ある日、覚悟を決めなくてはならなくなる。それは、鬼に魂を売り渡すことだった――。

 残酷で激しく、そしてやるせない“鬼”バトルを描いたマンガが『鬼門街』(永田晃一/少年画報社)である。2015年から連載を開始し、第1部15巻を経て現在は第2部『鬼門街KARMA』が連載中で、その最新11巻が発売したばかりだ。ますます盛り上がる『鬼門街』を、本稿では改めて最初から振り返る。未読の方にはぜひチェックしてもらいたい。

死の淵からよみがえり、鬼の力を手に入れた少年の“やりとげたい”こと

 物語は悲劇から始まる。トラック運転手の父と平凡な主婦の母と暮らしていた主人公の高校生・川嶋マサトは、ある夜彼が寝ている間に母親を殺されてしまう。犯人もその動機も痕跡も不明で、警察の捜査も難航する。そんななか、マサトはチンピラに襲われて重傷を負う。

 母に続いて命を落としかけるマサト。その前に突如として“鬼”の豪鬼が現れる。彼の命の残り時間がほとんどない状況で、豪鬼は取引を迫る。

 それは、理不尽な死を受け入れて天国へ行くのではなく、鬼である自分に魂を売って生き、鬼の力を手に入れるという取引であった。ただ、そこには絶対のルールがあるのだが。

 かくして、マサトは豪鬼に魂を売り、生きることを選択する。驚異的な回復力や動体視力という「属性」を手に入れた彼は、自分の手で母の命を奪った犯人を捕らえて裁きをくだしたいと、復讐を誓うのだった――。

 ここまで読んで、あなたは本作を「チートな力を得た少年の成長と戦いを描く王道バトルマンガ」だと“たか”を括るかもしれない。だが、読み味はけして甘くはない。

 魂を売って力を得る取引に設定されている絶対のルール、それは「鬼に魂を売った者は死んだときに地獄に堕ちる」ということだ。この世界には天国も存在するというのに、その権利を放棄するしかない残酷な定めである。自分がもしマサトのように死にかけたとしても、鬼の誘いに乗るだろうか、と考えさせられた。

覚悟を決めた人間のアツくビターなバトルマンガ、復讐の先に待つ結末とは

 マサトの住む「鬼門街」には多くの鬼たちがやって来ていた(その理由は天国と地獄のバランスが影響しているのだがここではネタバレを避けて説明しない)。そんな鬼に魂を売った人間たちがマサトの前に現れる。彼らのなかには鬼の力をもてあまし、暴れたり犯罪に走ったりする者もいれば、マサトのように「やりとげたいこと」のために地獄行きの運命を受け入れた人間もいる。


 鬼との契約者たちの死にざまは非常に壮絶だ。地獄から鬼たちがやってきて群がり、掴み、噛みつき、体を食いちぎって地の底へ引きずり込み、沈んでいく……。マサトでなくても思わず息を呑む。

 ただ、このシーンは悪趣味やグロテスクさの強調などではなく、悪人も善人も、鬼に魂を売った全ての者に等しく訪れる最期であり、マサトはこれを目の当たりにして自分の運命を理解するのだ。契約者たちは最後は地獄へ堕ちるという運命、その断ち切れない鎖に縛られることで超常的な力を発揮する。鬼にはそれぞれ異能力があり、魂を売った人間はその能力をつかえるようになる。マサトは、母のかたきを探すうちに契約者たちと対峙し、犯罪に手を染める人間と戦う。

 マサトの豪鬼から得た超人的な動体視力、身体能力を生かしたバトルは、迫力満点だし強い感情も描かれておりグッとくる。

 鬼の能力はさまざまだ。触れた相手の思いを読み取れる能力、遥か遠くの声や会話を聞き取れる“地獄耳”などがあり、粗暴さが増幅されるだけの場合もある。鬼はただ契約して能力を使わせるだけ、悪事を行うのはあくまで人間なのだ……。

 鬼から圧倒的な脚力を手に入れ、跳び、走り戦う「大倉」。死の一歩手前の人間も細胞レベルから回復させられる、高校で最強だと恐れられている不良の「広瀬」。彼らのバトルも見応えがあるので注目してほしい。

 そこには各々の戦う理由や過去の行いも描かれており、単純にスカッとする展開にはならない。切なさを感じ、やるせない気持ちになることもある。本作は、覚悟を決めた人間のアツくビターなバトルマンガなのである。

 はたしてマサトは復讐をやりとげられるのだろうか。15巻まである第1部は、マサトの父・勝臣が、自身の過去にかかわる謎の男に襲撃されるところで終わっており、7月14日に発売された第2部『鬼門街KARMA』11巻では、勝臣は昏睡状態のままで、鬼と契約した者同士が戦うゲーム「カルマ」が進行している。

 鬼の力を私欲ではなく、母や父へ想いのためだけに使うマサト。彼について豪鬼はこう呟く。

コイツのような人間を今まで見た事がない
単純に興味が湧いたんだよ
コイツが迎える結末はいったいどんなものなのかがな………!!

 読んでいる私たちもまた、豪鬼と同じことを思うはずだ。

 魂を売って復讐に何もかも費やしてきた少年は、本懐を遂げ笑って最期の時を迎えるのだろうか。それともまた別の終わりが待っているのだろうか。

文=古林恭

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