「運命の人」は誰? 未来の結婚相手を写した1枚の写真が導く先は―― 恋と成長の物語『10年後の花嫁』【書評】

マンガ

公開日:2025/8/9

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「運命の人」とは、誰が決めるのだろう。恋愛や結婚において“理想の相手”を探し求める人は多いが、その答えがあらかじめ決まっているわけではない。むしろ、「自分がどう生き、何を選ぶか」によって、運命は少しずつ形を変えていくのではないか。

10年後の花嫁』(岡野く仔/KADOKAWA)は、そんな当たり前だけれどつい忘れてしまいがちな大切なことを教えてくれる、恋と成長の物語である。

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 物語は、幼い頃、おばあちゃんの家で“未来の自分と花嫁”が写った写真を見つけた男の子・自由(本名はみゆうだが、ジューと呼ばれている)が、その女性を探し続けるところから始まる。高校生になった自由は、ついにその写真の女性と瓜二つの少女・千代に出会い、「未来の花嫁は彼女に違いない!」と心を躍らせる。ところが、同じクラスの瞳子と親しくなったある日、写真に写っていた“未来の花嫁”が、いつの間にか“瞳子”へと変わっていたのだった。

 明るくて気さくな瞳子と、優しくて真面目な千代。対照的なふたりのヒロインはそれぞれ異なる魅力を持ち、自由はその間で心を揺らしていく。だが本作は、単なる三角関係ものにはとどまらない。“未来の写真”という指針に囚われることで、目の前にいる相手の想いを見失ってしまう危うさまでもが丁寧に描かれている。

 AIによるマッチングや、SNSが“最適な相手”や“正解”をレコメンドしてくれる現代。そんな社会では、「誰かが選んでくれる未来」や「人生の正解を見つけたい」といった考えに、疑問を抱かない人も多いのかもしれない。けれど、読み進めるうちに気づかされる。「本当に大切なのは、誰かを想い、共に未来を築こうとする意志なのだ」と。未来は、誰かに与えられるものではない。自分がどう歩み、誰を大切にするか。その積み重ねの先に、“運命”は生まれていく。

 青春ラブストーリーとしての甘さはもちろん、進路や人間関係に揺れる思春期の葛藤、そして「成長の痛み」までもが丁寧に描かれた本作は、恋愛や人生における“選択”の意味を改めて問いかけてくれる。

 一見ファンタジックに思える“未来の写真”は、実は私たちの日常にも通じるテーマを象徴している。本作は、誰かを想う気持ちに誠実であること、そして自らの手で未来を選び取っていくことの大切さを、そっと胸に届けてくれる作品だ。

文=ネゴト / すずかん

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