職探しのはずがハローワークから異世界へ。ハーレム願望アリのニートが滅亡寸前の世界でサバイブ開始【書評】

マンガ

公開日:2025/7/25

ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた』(桂かすが:原作、高野いつき:漫画、さめだ小判:キャラクター原案/キルタイムコミュニケーション)は、ひょんなことから異世界に放り込まれた青年が奮闘する、等身大の成長物語だ。

 異世界転生ものといえば、勇者召喚やチート能力が定番だが、この物語はそうした“お約束”を大胆に覆してみせる。異世界に送り込まれるのはハローワークにたまたま立ち寄ったニートの青年・山野マサル。面接を受けただけなのに、世界の崩壊を回避するための“20年間限定のプレイヤー”として命をかけた任務を担う羽目に──という突飛な導入から幕を開ける。

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 しかし、マサルは突然の転送にも動じることなく、「こうなったら20年間生き延びてやる!」と腹をくくる。その図太さと、現実を前向きに受け止める柔軟さは、むしろ異世界生活にこそ必要な資質に映る。

 チート能力は一応与えられているものの、決して万能ではない。初戦では野うさぎの群れにさえ重傷を負うほどの実力しかなく、戦力としては心許ない。それでも彼は、自らの手で力をつけ、少しずつ前進していく。マサルが努力を重ねて少しずつ成長していく姿には応援したくなる魅力があり、その過程を見守る楽しさも味わえる。

 また、戦闘描写だけでなく、異世界での日常を丁寧に描かれている点も見逃せない。マサルが新たな世界に馴染んでいく様子や、仲間との絆、そしてささやかな幸せを積み重ねていく時間が、物語全体にやさしい温もりを添えている。

 さらに、マサルの「ハーレムを作りたい」という正直すぎる夢も憎めない。飾らず、虚勢も張らず、素直な言動がむしろ清々しく映る。そんな“平凡な主人公”だからこそ、「自分が異世界に行ったらこんな感じかも」と想像をかき立てられるのだろう。

 異世界でいきいきと暮らしながら、特別な力に頼らず、一歩ずつ着実に前へ進んでいく。その姿は、現実を生きる私たちにも重なり、前向きなメッセージをそっと届けてくれる。異世界ファンタジー好きなら間違いなく楽しめる、魅力がぎゅっと詰まった一冊。自信をもっておすすめしたい。

文=ネゴト / すずかん

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