スランプ中の現役高校生漫画家。「大っっっファンです!!!」と声をかけてくれた青年は担任教師で…。生みの苦しみを知るすべての人に響く青春物語【書評】

マンガ

公開日:2025/7/25

ⓒ夏奈ほの/祥伝社
ⓒ夏奈ほの/祥伝社

 創作に携わる人間であれば、誰しもが一度は行き詰まりを経験するものだ。努力を重ねても成果が見えず、先の展望が開けないとき、心は暗い思考に支配されがちになる。そんなときに傍で励まし、寄り添ってくれる人の存在はどれほど大きいだろうか。創作は孤独な作業であるが、だからこそ人とのつながりが支えとなり、前を向く力になるのだ。

先生とひととせの青』(夏奈ほの/祥伝社)は、スランプに陥った現役高校生漫画家が、偶然の出会いを通して創作を楽しむ気持ちを取り戻していく物語だ。

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 主人公は人気漫画家・夢咲ユタこと、大空豊・17歳。デビュー作『グリーンエスケープ』がヒットし、一躍話題に。学校を休学して連載に打ち込んでいたものの、強いプレッシャーに心身が限界を迎え、現在は休載中だ。以来、気持ちばかりが焦って空回りする日々が続き、創作への情熱も遠のいていた。

 そんなある日、豊は散歩中に「夢咲ユタの大ファン」と名乗る青年・桐ヶ谷暖に偶然出会う。作品愛に溢れる彼とのやりとりは、豊にとって楽しいものだった。暖との関わりを通して、豊はしだいに前向きな気持ちを取り戻していく。そして迎えた高校3年の春。久しぶりに登校した豊の目に飛び込んできたのは、教師として教壇に立つ暖の姿で――!?

 現役漫画家・豊と、現役教師・暖。作中では、年齢も立場も異なる彼らが、漫画や創作への真摯な思いを通して少しずつ心を通わせていく過程が丁寧に描かれている。休載中、かつて抱いていた情熱や喜びを思い出せず、筆をとることすら怖くなっていた豊。そんな豊に対し、暖は教師として、そして彼が生みだす漫画作品のいちファンとして、自分は味方であるとさまざまな形で伝える。

 暖の温かいまなざしと誠意のこもった言葉は、豊のように創作の世界の厳しさに悩んだことがある人の心にそっと寄り添ってくれるだろう。なかなか前に踏み出せずにいる人の背中をそっと支えてくれるような優しさに満ちた作品だ。

文=ネゴト / 糸野旬

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