「空」を舞台に繰り広げられる、スチームパンク×アクション漫画がアツい!お宝とロマンを求める冒険活劇『空賊ハックと蒸気の姫』【書評】

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PR 公開日:2025/7/10

空賊ハックと蒸気の姫 1
空賊ハックと蒸気の姫 1井上智徳/マッグガーデン

 飛行船が空を駆け、浮遊都市が宙に浮かぶ世界。そんなスチームパンクな幻想に胸をときめかせたことのある読者にとって、『空賊ハックと蒸気の姫』(井上智徳/マッグガーデン)は心躍る冒険活劇だ。

 帝王暦1901年。浮力を持つ蒸気を発する鉱石「ミストリウム」の発見により、世界は“ミスト産業革命”を迎える。人々は地上を離れ、空に浮かぶ都市へと生活の場を移していた。海賊やアウトローたちも空へ進出し、「空賊」と呼ばれるようになった時代。主人公のハック・ヴァンクロフトは、没落した実家を立て直すため、一攫千金を夢見て3人の仲間とともにトレジャーハントの旅を続けていた。

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 ある日、彼らは機関士見習いのドリーナと出会う。亡くなった父の形見である「メテオリング」を探しているという彼女を、仲間として迎え入れるハックたち。だがドリーナの正体は、帝国の王女だった——。

 丁寧な導入が印象的な本作。1巻では、世界観をしっかり見せながら、ハックとドリーナを中心にキャラクターたちの性格をじっくり掘り下げている。主人公のハックは、群れを嫌い、空賊ギルドにも属さず自由気ままに空を翔けるアウトロー。「人助けは嫌い」と口にしながらも、困っている相手を見過ごせず、仲間にも情をかけずにはいられない。

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 そんな彼とともに旅をするクルーたちも個性豊かな面々ばかり。操舵手を務めるのは竜人族のドラクロワ。無骨な見た目に反して、飛行船の台所を一手に担う料理長でもあり、腕前は本物。銃の扱いに長けたメイドの少女・ミリカは、記憶喪失の状態でハックに雇われた過去を持つ。経理係のヘルムートは人語を操るフェネック。その愛らしい見た目に、読者も思わず癒されることだろう。

 そして鍵を握る「蒸気の姫」ドリーナは、聡明で芯のある少女だ。物語を通して、意志の強さを貫く姿が心に残る。ハックたちとの出会いが、彼女自身の運命を大きく動かしていく。

 登場人物と世界観の描写にページを割きながらも、決してテンポは失わない。序盤から読者を自然と物語に引き込み、強い没入感を与えてくる。物語の軸が大きく変わるのは、ドリーナの正体が明かされてからだ。王女誘拐犯となり、懸賞金をかけられることとなったハックたち。彼らとドリーナを巡り、帝国軍や他の空賊たち、さらには帝国貴族の思惑などが絡み始め、宝探しの冒険から世界を揺るがす大事件へと発展していく。

 話が進むたびにストーリーの厚みと広がりが増していき、最新の第3巻では舞台が「天空万国博覧会」へと移る。そして、帝国の陰謀の一端が明かされる展開へと進んでいく。トレジャーハント、逃亡劇、政治的な駆け引き。要素は多くとも雑然としないのは、緻密な構成に支えられているからだろう。

 本作の根幹にあるのは、“許しと選択”かもしれない。3巻でドリーナを襲う、ある衝撃的な事実。信頼していた仲間が、実は仇だった。その事実を突きつけられたとき、ドリーナはどんな答えを出すのか。一方、帝国に家族も領地も奪われたハックにとっても、ドリーナは“仇の側”にいる存在だ。本来なら共に旅をするはずのない相手。だが彼は、ドリーナを同じ船に乗せると決めた。派手なスチームアクションの裏で描かれるのは、過去や関係を乗り越えようとする人間たちの姿だ。

空賊ハックと蒸気の姫』最新3巻は、7月10日(木)発売。ハックたちの冒険はまだ始まったばかり。彼らの向かう先と、そこで待ち受けるものを、ぜひ追いかけてみてほしい。

文=倉本菜生

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