ページごとに変わる世界観にハマる人続出! 卒業制作で挑戦した「眺める漫画」がSNSで話題【漫画家インタビュー】

マンガ

公開日:2025/7/11

 最新の書籍や人気の漫画作品の情報を発信する「ダ・ヴィンチWeb」。今SNSを中心に話題を集めているホットな漫画を、作者へのインタビューを交えて紹介する。

 取り上げるのは、大学の卒業制作として発表された『無題2024』。X(旧Twitter)にて2025年2月に投稿された本作は、8600件を超えるリポストと6.2万件を超える「いいね」を獲得し、大きな反響を呼んでいる。

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 作者・おなや れお(@salmomomon)さんにインタビューを行い、創作のきっかけやこだわりについて語ってもらった。

 記憶をなくした青年が、案内人に導かれて異世界の扉を巡る――。

 現実とも夢ともつかない、不思議な空間を旅するうちに、青年は少しずつ“本当に帰りたい場所”を思い出していく。ページごとに世界観がガラリと変わる構成は、まるで読者自身も物語の中をさまよっているかのような没入感を生み出している。

「どこへでもいけるよ」――案内人の言葉が胸に響く。出口の先に待ち受けるのは、温もりか、絶望か。読む人の心にもそっと寄り添い、そっと背中を押してくれる、体験型漫画だ。

不安も連れて、一歩ずつ──荷物じゃなく、愛しさとして抱きしめたい

ーーこの作品を描こうと思ったきっかけや、その理由を教えてください。

 所属していた漫画専攻のゼミでは、ほとんどの同級生が将来的にプロを目指していたため、「商業漫画的なおもしろさ」を追求した作品づくりに励んでいました。

 しかし、大学の卒業展示となると、来場される方々は、赤裸々な若さや感性を浴びることを楽しみにしているのではないか——そう考えました。

 そこで本作は、「商業漫画的なおもしろさ」ではなく、もともとやってみたかった「キャラクターをそこまで主軸に置かない挑戦的な作風」、そして実験的なコマ割りを多用する「まんがあそび」を基軸に制作を開始し、『無題2024』が生まれました。

ーーこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントを教えてください。

 コマ割りです。世界観がコロコロ変わるお話なので、コマ割りも非現実的で立体的な造形をしていたり、コマが背景の一部になっていたりと、「読む漫画」というよりは「眺める漫画」としての楽しさを追求しました。

 どこまでが漫画としての機能を持ち、どこからが世界の中の背景なのか、なぞるように読んでもらえると楽しいかもしれません。

ーー特に気に入っているシーンやセリフを教えてください。

 お気に入りのシーンはいくつかあるのですが、特に54ページの2コマ目がお気に入りです。

 一番最初にペン入れをした部分で、個人的にもとても満足のいく仕上がりでした。描き終えたあと、しばらく一人で眺めていたほどです。なんともいえない絶妙な表情が描けて、たまらなく嬉しかったです。

ーー卒業制作とのことですが、制作中に印象的だった出来事や思い出深いエピソードがあれば教えてください。

 制作の草案をゼミ内で持ち寄ったのは、展示の約1年前。かなり余裕を持って取りかかっていたはずなのに、気づいたら締め切り1カ月前になっても、1ページもペン入れができておらず、大急ぎで仕上げたことを覚えています。

 締め切り前日、雑なままのトーンで仕上げたので「たぶん自分が最後だな」と思っていたのですが、なんと、同じゼミの子が締め切り当日にようやくペン入れをしていて驚きました。みんなで夜10時ごろまで、先生に怒られながら手伝ったのは、今ではちょっとした青春の思い出かもしれません。

ーー「おちものパズルゲーム」で扉が出てくるシーンの2ページ前に、ちゃんと扉が隠れているのを見つけたときは興奮しました! 読者が気づいていないかもしれない、そんな仕掛けや伏線があれば教えてください。

 仕掛けに気づいていただけるのはとても嬉しいです。他に挙げるとすれば、案内人の時計の針が、出会ってから別れるまで、ゆっくりと動いているところです。

ーー子どもの頃からマンガをたくさん読まれてきたのでしょうか? 印象に残っている作品や、影響を受けた作品があれば教えてください。

 子どもの頃は、実家にあった漫画をよく読んでいました。メジャーな少年漫画が多かったです。

 印象に残っているのは、鳥山明先生の『サンドランド』。どの絵もかっこよくてワクワクして、一巻で完結しているのがとても印象的でした。

 影響を受けた作家さんは、松本大洋先生、山本ルンルン先生、林静一先生。かわいらしさの中に少し毒っ気があるような作品が好きなのかもしれません。

ーー「迷ったら一歩」というセリフが、読者へのメッセージにもなっていると感じました。おなやさんにとってはどのような言葉でしょうか? 実際に一歩踏み出してよかったと感じた経験があれば、あわせて教えてください。

 自分もそうですが、たくさんの人がどこかで抱えている「不安」に対して、ほんの少し背中を押す言葉だと思っています。

 この作品のテーマは「まんがあそび」のほかに、「不安」もありました。未来に対する漠然とした不安、自分自身に対する不安、新しい環境への不安、SNSで広がる噂話や敵意に対する不安……。現代を生きる人々にとって、「不安」はとても身近なテーマだと感じています。

 不安を手放そうともがいても、あまりに身近になりすぎて、なかなか手放せない。そんな自分に嫌気がさしたり、苦しんだりすることもある。そういうまっすぐに生きている人たちに、「手放せないなら、いっそのこと不安も一緒に連れて、一歩ずつ進んでみようよ」という気持ちを込めました。

「荷物として抱える不安ではなくて、ぎゅっと抱きしめられるような不安にしてしまおう。それすらも愛しさに変えてしまってもいいんじゃない?」という感覚です。

 私自身、この漫画を制作する中でもたくさんの不安がありました。SNSに投稿する前は、正直、誰にも受け入れてもらえないと思っていたのですが、こうして機会をいただけたのも、ほんの一歩を踏み出せたからだと感じています。

 不安を払拭することはできなくても、とりあえず投稿してみてよかったと心から思っています。この漫画自体が、何かに踏み出すきっかけになっていたら嬉しいです。

ーー今後の創作活動における展望や目標を教えてください。

 漫画の連載ができたらいいなと思っています。自分の漫画が単行本になって、これから生まれる子どもたちが多様な娯楽の中でも「漫画っておもしろい!」と思ってくれるような、誰か一人の人生を変えてしまうような作品を描くことが目標です。

ーー最後に、作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。

 読んでいただきありがとうございました。拙い部分も多い作品ですが、初めてのオリジナル漫画を多くの方に読んでいただけて、本当に嬉しいです。ジャンルを問わず、さまざまな作品に挑戦していく予定です。今後もよろしくお願いいたします。

取材・文=ネゴト / Micha

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