顔はコワモテ、心はピュア お菓子作りとガーデニングが趣味の15歳男子が高校で“運命的な出会い” その意外な相手は…?【書評】
更新日:2025/8/5

このご時世、「男らしく」「女らしく」なんて表現は死語になりつつあるが、それでもどこかで女性らしい振る舞いを意識している自分に気づいたり、日常的にメイクをしている男性に「珍しいな」と感じてしまったり、若々しい服装を着た高齢の女性を目で追ってしまったり、そういう自分に気づくたびに辟易とすることがある。自分の中に巣くった偏見や古い価値観というのは、簡単になくなるものではないのだ。
ふじもとゆうき著『寿々木君のていねいな生活』(白泉社)の主人公、寿々木薫も、まさにこういった視線や発言に傷ついてきたうちの一人だ。
高校生の薫は、身体も大きく、表情も強面。見た目こそ怖い印象を与えるが、彼自身の趣味は、手芸と料理とガーデニングで、日頃から家で植物を栽培し、お菓子を作り、愛する妹のお人形の服を作ってあげるという、なんとも素敵な暮らしぶりをしている。性格も穏やかで、引っ込み思案なところがある。そんな薫の“顔に似合わない”趣味や性格は中学時代に嘲笑の対象となり、ひどいいじめを受ける日々が続いた。

そんな彼が高校に入学した初日、運命的な出会いをする。通学中の電車で酔っ払いに絡まれた薫を、同じく高校1年生でクラスメイトとなる春名新が救ってくれたのだ。春名は、一瞬女の子と見間違えるほど綺麗な顔をした美少年だが、柔道の腕前は高く、自分よりずっと大きい薫をひょいと背負って走れるほどの力持ち。彼もまた“見た目に反した”性格の持ち主だった。

春名が薫の趣味を認めてくれたことで、薫自身も少しずつ自信がつき、クラスメイトとも交流ができるようになる。気がつけば、クラスの“お母さん”ポジションとして親しまれる存在に。
春名は、薫が中学時代にいじめを受けていた話を聞いて、さらっと「運が悪かったな」と言う。私はこの表現が好きだ。彼がいじめられていたのは、彼自身の問題ではなくて、彼がたまたまそういうことを馬鹿にするクラスメイトを引き当ててしまっただけなのだ。



ありのままに、好きなものを好きだと言っていい。薫は高校に入り春名と出会い、大事なことを学び自分を解放していくようになる。そして、ありのままに好きなものを好きだと言えるようになった薫は、周りの「好きなものを好きだと言えない」子たちを無意識のうちに救っていくようになる。


また、8月5日には第3巻が発売された。これまで単身赴任で家を空けていた父親が帰ってきたり、同じ家庭科部の同級生・つむぐや学年一のモテ男子・成嶋と新たに秘密を共有することで仲を深めたり、薫の新たな一面(?)にクラスメイトが驚いたり頬を染めたり……と、とにかくてんこもりの最新刊だ。
読めば、必ず心があたたかくなる。誰かに優しくしたくなる。自分の好きなものをありのままに受け入れることができるようになる。『寿々木君のていねいな生活』はそんな素敵な漫画だ。ぜひ薫くんの丁寧なスクールライフに心を癒されてほしい。
文=園田もなか
